矢吹

イノセンスの矢吹のレビュー・感想・評価

イノセンス(2004年製作の映画)
3.8
イノセンス、潔白純真、無知無害。
イシカワ、漢の一句。
ゴーストインザシェルみたらこれになるというか、そもそもは、これを見るために見始めたと言っても過言ではなかったり。

孤独に歩み、悪をなさず、求めるものは少なく。
林の中の象の如く。生身の人形。

バトーおじさんの事件簿。
犬を育てる義体の男がさまよう、
人形、大人、子供、動物、電脳の世界。
相変わらずかっこいいアニメーションだこと。
今回は、割と事件そのものの描き方は一直線でありまして、どちらかというと、バトー個人に焦点が当たった、彼のアイデンティティから人間存在の定義を問う話だった感じがしましたね。
今まで見てきた攻殻機動隊って、
そういうテーマも絡めた上での政治的な犯罪や国家的な私利私欲、個人の悪意や善意などが複数絡んだ二転三転する事件とサイバーパンクの見せ方が好きだったので、
今作は単体ではあんまり好みじゃないかな。
シリーズの中の一つとしては、めちゃくちゃありだし、その分、難解な要素がまあ濃いこと。
そして、ラブストーリーはいつも通りだぜ。

果実を食べた人間には届かない、
動物の深い無意識の喜び。
子供に無意識の喜びはあるか。
だって、人形になりたくなかったんだもの!
子供は人形だ。なんてのは子供を捨てた大人の傲慢な観念で、子供が子供であることへの大人としての復讐で、だから、なんとしても大人にしたい。子供が人形を好む理由は、子育ての模倣だが、それは、実は大人への皮肉な攻撃なんだよ。という説もある。
では、犬を育てることはどういうあれですか。
人は、種の保存という本能に理性で抗うことはできないのか。抗う必要性から問う人形への恐れ。
我々の愛もまた科学的でいいと思うけどね。

生死の去来するは棚頭の傀儡たり一線断ゆる時落落磊磊。
人体は自らゼンマイを巻く機械であり、永久運動の生きた見本である。

シーザーを理解するためにシーザーになる必要はない。とは言いながら、
まじで引用だらけだったりで、
その全てを理解するには、
相変わらず、思考しながら瞬時にアクセスできる外部記憶装置がないととてもじゃないけどついていけないっすね。
ただ、多少スルーしても、多少因果関係がわけわからんとなっても、まあ攻殻機動隊だし、破綻してるわけはないので、気にせず突撃だ。ってな具合に信頼はできちゃうわけですよ。
非常に鑑賞者としては良くない態度だな。
それと個人的な話、スマホなんかは完全な外部記憶装置になりつつあるから、もしデータが飛んだ時に自分の中になにが残ってるかも、多少は懸念されるけど、実際、自分自身で記憶することをやめる習慣がついてきたような感覚に気が引けるような気もすれば、さっさと頭に埋め込んじまえば自分の思考になるのにというような気もすれば、埋め込んでも飛べばそこまでな気もするし、そうなると引用しかしなくなる気もするんだよな。なんてったって、初めからこの世は全部引用だ。って言いながらね。
そんな時こそ、ゴーストが囁いてくれるんでしょうか。
しかし、ここまでガチガチに作り込んで、よくこんな終わらせ方できるな。だからこそなんだろうか、こうするしかないのか。なんでもいいですが、かなり良いですよね。
この世界観にしてこの映像にしてこの作品あり。って感じなので。

鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。
聲ある者は幸福也。
これが一番好き。鳥魚云々はどうでもいいんだけど。
こんなにも自己矛盾。いや自己の複数所持。
ロバが旅に出たところで馬になって帰ってくるわけじゃあない。
孤独に歩むのも、悪をなさないのもいいんだけど、ただ、求められるだけ求めたいよなあ。
矢吹

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