巨匠ジョンフォードが巨匠と呼ばれる所以がここにあったのかと思った。自身3度目、そして生涯で4度アカデミー監督賞を得たのは現在までにフォードただ1人。けれども、そんな偉大な彼も作品賞を獲ったのは唯一この作品だけ。
数々の西部劇や戦争映画ばかりが注目されがちだけれど、こうした一見退屈そうな文芸作品にこそ、映画の醍醐味が詰まっている。
戦前に撮られたとは思えないほど現代的な描写も多く、登場人物は皆艶やかで品がある。そして何よりモノクロ作品なのに色を感じる。持論として(いや通説かも)優れたモノクロ映画は観てしばらく経つと「あれ?あの映画、白黒だっけ?カラーだっけ?」ってわからなくなるものだ。
ドイツの空襲が絶えないイギリス本土での撮影が不可能でカリフォルニアで撮ることになり、そこに生えている花の色が舞台となるウェールズにそぐわないという理由でモノクロでの撮影になったらしい。結果的にそれがかえって想像力を育み、見事な映像に結実したように思う。
炭鉱の村のセットは11万ドルをかけ半年がかりで製作されたとのこと。カメラワークやエフェクトでは勝負しない、フォードらしさはこんなところからも窺い知れる。
ストーリーは美少年ヒューの語りから始まる。炭鉱の村に訪れる産業や経済の変革の波、性への憧れ、大人の恋愛事情、家族の確執、さまざまな出来事が幼い目を通して観ている者を世界へといざない、あたかも自分が体験しているかのように錯覚してしまうほど。
ちょっと「パリテキサス」のハンターを思い出してしまうようなヒューの愛らしさ、人を助けようとして怪我をしてしまったり、周りに振り回されたりしながらも、最後は自分で行くべき道を掴んでいくさまは感動的だ。
原作ではその後アルゼンチンへ移住して帰ってきての回想ということらしいので、長編ながらその小説もぜひ読んでみたいと思った。
映画を観て原作読むぞ〜!と思ってそのまま買いもしてない作品がたぶん100冊はある。どうしよう。