のら

東京家族ののらのレビュー・感想・評価

東京家族(2012年製作の映画)
3.5
最初の数十分は小津安二郎オマージュのカット割りで、この路線で最後まで行くのかな?と思ったが、結局男はつらいよになってしまっている。そのためわざわざこのタイトルで作る必要を感じない。

話としては老夫婦の上京物語というシンプルな物で悪くはない。しかし東京を舞台とした家族の物語として出来が非常に悪い。というのも本作で描かれる家族感が、現代の東京に住む家族の物語として非標準的過ぎる。

例えばサザエさんの磯野家は日本でも最も有名な家族のひとつだ。しかし現代日本の標準的な家庭と言われたらどうだろうか?現代の東京を舞台にした家族の話としてはクレヨンしんちゃんの野原家の方が現実に近いのだ。

そのため本作の全員自営業という家族感は古い家族観が現代にタイムスリップしているように感じてしまう。また東京から広島の距離感が、小津安二郎が生きていた頃と現代ではまるっきり違う以上は、妻夫木聡が恋人を連れて母親の葬式に行くという葬式映画でも良かったのではないだろうか?

結局の所タイトルに東京を名乗っているのに、東京が舞台である必要性が弱いのが本作の欠点と言わざるを得ない。タイトルに"東京"を入れる以上はそこにはこだわりを見せて欲しかった。老夫婦の上京話としては良いだけに、履かせた下駄によって自分から躓いている感が否めなく勿体無い。

また小津映画はカット割りにばかり注目されるが、あれはライティングが肝なので、現代のカラー映画であの感じを出すのは無理なのではないだろうか?
のら

のら