よしまる

舟を編むのよしまるのレビュー・感想・評価

舟を編む(2013年製作の映画)
3.9
 気になりながら、原作も未読。お気に入りの俳優さんも出てないのだけれど(しいて言えば加藤剛さんw)、辞書を作るプロセスには興味があったし、最近「博士と狂人」なんて映画もやっていたので先に観ておこうという目論見。
 ところで最近オダギリジョーに当たる確率が高く、今回もなぜか遭遇。
しかしこれまで観た中で一番良かった。たぶん、本来の彼の性格や振る舞いとはまったく異なるものなのだろう。地が出てないからこその良さ、みたいなものを感じた。
(あれ、失礼なこと言ってる??)

 主役の松田龍平と宮﨑あおい、監督の石井裕也の3人共がまだ30歳前後と若く、
まこと地味な物語ながら初々しさに溢れているのが独特で素敵。

 脇を固めるのも若手、ベテランともに手練の演技派ばかりで、素人みたいなアイドルや芸人を一切起用していないのも好感度が高い。と思ったらピース又吉が出てたw

 残念だったのは八千草薫さんかなぁ。ほとんど晩年の作品なんだけれどちょっと大物感が出すぎてしまって、作品的には少々余計な描写が多かった。若い監督が超大御所に最大限の敬意を払った演出だと思うことにしよう。

 辞書作りや出版業界ネタなど、いろいろと軽やかに転がるのが観てて楽しく、文系だって、いや、文系コミュ障オタクこそ胸の内には熱いもん持ってんだぞというパッションが映画に満ちていた。
 その一方で主役コンビの恋ばながこの映画の持つ初々しさをもっとも体現していたのだれど、二人の馴れ初めが面白かっただけに、あとは予定調和的にただただ良い夫婦でしかなかったのが少々物足りない気はした。途中まではね。

 クライマックスとも言うべき、雪の降り積もる通夜の夜のシーン。

 無言で香具矢の作った蕎麦をすする二人、ふいに無念の思いが込み上げてくるマジメの背中を優しくさする香具矢(ここすべてワンカットで回してる)を観ているとこっちまでもらい泣きしてしまい、期待したような下世話な描写はなくとも、長年きっといろいろあって今のふたりの絆があるんだなと感じさせてくれる名場面だった。

 こういう何気ないワンシーンがズドンと刺さり、それだけでいつまでも心に残る映画ってあると思うし、誰もが違う場面でそれを感じて自分好みの映画っていうのが出来上がっていくのかもしれないよね。

 言葉を編むことで辞書が出来上がる。言葉にすることで想いが伝わる。
 言葉の持つ大切さは小説でも伝わるけれど、その言葉を介し人と人が繋がり、愛を育んだり関係を深めたりしていく様子など、映像であればこそ描けるものもあるんだなぁと、映画の良さを堪能できる映画だった。