ニトー

ゼロ・ダーク・サーティのニトーのレビュー・感想・評価

ゼロ・ダーク・サーティ(2012年製作の映画)
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「ハート・ロッカー」からこっち、ビグローさんは人間の人間化を行っているような気がする。ただ、その描き方が逆説的になるような題材を選んでいるためにそれが=で社会問題と直結するのだろう。

逆説的、というのは要するに人間が非人間化する状況を設定(というか事実からの引用)する。その意味では、イーストウッドの「アメリカン・スナイパー」もこの系統に入れることはできなくもない気がするんですが、あれはむしろ「それをそのまま描いたら結果的にそう見える」というだけ(つまり観照者としてのイーストウッド)でしょうが。

ジェシカ・チャスティンの前半と後半との変貌ぶりというか適応ぶりというのがつまりはそういうことなのである。

しかし、この映画を見てこうして感想を書く事で、なぜ「感情的」というワードが往々にしてネガティブな意味合いで用いられるのか、ちょっと見えてくる。

「感情的になるな」というのは、要するに軋轢を避けるためなのだろう。感情的になるということは感情を持つ人間にとって最も人間らしい反応である。しかし、それがゆえに他者との軋轢を生じさせ苦痛を受け止めなければならなくなる。

感情的になるな、というのは要するに非人間化である。誰しもが一度は思うことだろうけれど、感情というものがなければどれだけ生きやすいかという想像をしてみる。あるいは、創作などでも感情を捨てたり切り離して「神」だとか「完全」だとか呼ばれるものに至ろうとする輩もいる。

まあ、当然のことなのだけれど、その行為自体がどうしようもなく人間的なわけで、結局のところは人間は人間でしかないのだろう。
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