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天使の分け前のakrutmのレビュー・感想・評価

天使の分け前(2012年製作の映画)
3.2
暴力沙汰を起こして社会奉仕活動を言い渡された青年ロビーが、恋人との間に子供が出来たことをきっかけに、更生していくまでを描いた社会派コメディ。不良少年が社会的に自立することの困難さという社会問題をテーマとして扱いながらも、青年に対する温かい視線や映画全体から感じられるユーモラスな雰囲気によって、いかにもケン・ローチ監督らしい作品となっている。

一方で、内容的には、観賞者の視点によって賛否がはっきりと分かれる映画である。映画の前半は、ロビーの更生へ向けての道筋が描かれる。奉仕活動先の上司であるハリーに連れて行ってもらったウイスキー製造所で利き酒の才能があると気づいたロビーは、ウイスキーに興味を持っていく。前半は社会派ドラマとしての側面が強く、多くの人はロビーがウイスキーに関係する職業に就いて立ち直っていくという物語を期待するであろう。しかし、ケン・ローチ監督が描いた再生物語は、そのようなお決まりとも言える展開ではなく、ロビーやその仲間たちにある悪巧みをさせるというクライム・コメディ的な展開なのである。

なので、本作を社会派ドラマとして観ていた人にとっては、見終わった後も、なんとも言えないもやもや感が残ってしまう。私自身もそのような見方をした一人である。一方で、最初からクライム・コメディとして観賞した人であれば、ロビーの一連の行動に壮快感を覚えるであろう。確かにある意味で壮快なのである。注意深く見てみると、ケン・ローチ監督はそのような見方をしてもらうように、いろいろと細かい仕掛けはしているように思う。例えば、いくらロビーが更生しようと思っても、喧嘩相手が諦めない限り同じトラブルに見舞われるということが執拗に描かれるのである。また、そのようなクライム・コメディ的な見方をしていくと、タイトルに使われている「天使の分け前」という言葉が、二重の意味で使われていることに気付くのである。(表の意味は、映画でも述べられているように、ウイスキーなどの蒸留酒を樽で熟成させる間に気化して目減りする分のことである。)

以上のように、良くも悪くもいろいろと考えさせられる点で、優れた映画であると言える。個人的には最後まで引っ掛かりはなくならなかったけれど…もう少しクライム映画として突き抜けてほしかった。
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