こたつむり

本陣殺人事件のこたつむりのレビュー・感想・評価

本陣殺人事件(1975年製作の映画)
3.8
♪ もう嫌だよ 僕も疲れて 君も疲れて
  自分のこと 嫌になって行く

金田一耕助と言えば『八つ墓村』。
あるいは『犬神家の一族』か『悪魔の手毬唄』。あとは『悪魔が来りて笛を吹く』なんかも捨てがたいですね…なんて考える僕にとって『本陣殺人事件』は微妙な存在。個人的ベストテンを作ったら、ギリギリ10位くらい。

勿論、金田一耕助のデビュー作ですからね。
密室のトリックは横溝正史先生の作品の中でピカイチですし、面白いのは確実なんですけども…。

外連味が少ないというか。
猟奇性が足りないというか。
ぶっちゃけた話、死体の数が少ないので長編というよりも中編の印象が強かったんです。

でも、それは僕の見識不足でした。
原作を再現した本作は見事なまで不気味で、人間の業というか、ドロドロとした猟奇的な部分を描いており、山村の寒々しい雰囲気を含めて、まさに金田一耕助作品のフォーマットを作り上げていました。

何よりも、高沢順子さんの起用が大ヒット。
おかっぱ頭で、上目遣いで、ニヤリと笑ったら…いやはや、背筋がゾワっとするくらいに怖いんです。若かりし頃の写真を見る限りだと吉高由里子さんに似た感じなんですけどね。これは演出の勝利かもしれません。

また、地味に面白いのが解決に至る道筋。
定番の推理ドラマだと関係者を集めて探偵が謎解きをする…という流れですが、本作はそういう形ではなく、金田一耕助の述懐で真実を導くんです。だから逆に“おどろおどろしさ”が増しているんですね。ラストの画も含めて、これも演出の勝利と言えるでしょう。

まあ、そんなわけで。
中尾彬さんが演じる金田一耕助に違和感が伴うものの、物語としては「壮絶」としか言えない佳作。話によると、本作が金田一耕助ブームの足掛かりを作ったとか。それも頷ける完成度なので、ミステリ好きならば必見かと思います。

あと、何気にポイントなのが音の使い方。
かなりアナーキーな感じなんですよね。
自宅で鑑賞する際は雑音を遮断して臨むことをオススメします。
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