Ren

凶悪のRenのレビュー・感想・評価

凶悪(2013年製作の映画)
3.0
邦画に間違いなく存在する「満を持して登場した曲者がリリー・フランキーでした」映画の一角を担う作品。後の『死刑にいたる病』にも通ずる、死刑囚と面会し事件に迫っていく脚本には緊張感もイヤさも十二分にあり、しっかり楽しめる良作。

ピエール瀧もリリー・フランキーも十八番演技すぎて今観るともはや恥ずかしいキャスティングだけど、2013年の映画だからまだ許せる。

ジャーナリズムの視点から、「真実に迫りたい」正義感が「この手で悪を裁きたい」に変容していく危険性がよく表されていて、これが長編デビューとは思えない白石監督の重厚な演出を堪能できた。
『死刑にいたる病』の雅也が受け身の巻き込まれキャラクターだとしたら、今作の藤井(山田孝之)は能動的に事件にのめり込んでいくキャラクター。この先キケンの標識をぶち破って突き進んでしまう制御の利かなさみたいなものが、正義感で武装された人間の怖さを如実に表していた。
自分の妻や家族が直面している地獄には取り合わず、ただひたすらに事件へ突き進んでいくヤバさがある。

中盤のグロ描写も容赦無しで良かった。ちゃんと見せる。日本のこういうジャンル映画は露悪的であればあるほど陰鬱で良いな〜と思ったりするので(映画でしか観られない世界だしね)そういう意味で満足した。こういうのは一年に一本作られてほしい。
こと邦画でグロくやるなら、今作や『ヒメアノ〜ル』『見えない目撃者』『キャラクター』くらいには頑張ってほしいという願いもある。

ちょっと苦言を呈するなら、映画の3分の1か半分くらいが完全な回想なのでもっと藤井の視点を主張したほうが終盤の説得力が上がったのではないかな〜と少しでも思った。ただし回想パートへの入り方は100点。『彼女がその名を知らない鳥たち』の壁がバーンと倒れるやつとか『死刑にいたる病』の面会室のプロジェクションマッピングなど、白石監督の現実と現実以外をシームレスに繋げる演出のワクワク感は素晴らしい!



《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》










ラスト。木村(リリー・フランキー)を最も殺したがっているのは私刑感情にまみれてしまった藤井だと指をさされる。これは観客に向けられた指だとも解釈できると思います。ネットニュースを見て誤った正義感/私刑感情を爆発させる人間はちょっとTwitterを除けばごまんといる現実に指をさすかのようだと感じた。

エンドロール直前、カメラが引いていき、まるで藤井のほうこそが面会室のガラスの向こう側(つまり囚人側)にいるように見えてハッとする....。
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