LalaーMukuーMerry

凶悪のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

凶悪(2013年製作の映画)
4.0
英語の映画には汚い言葉として、”Fuck you!” がとてもよく出てくる。fuckの元の意味を考えると、日本にはこんなニュアンスのスラングは見当たらない。せいぜい「やってやる」くらいで文字にすると曖昧で迫力がない。だから日本人より英米人の方がずっと品がないと言えるのかもしれない。でも日本人が気軽に使う「死ね!」は、英語のスラングには見当たらない。日本人の方がずっと恐ろしい、と英米人は感じるのかもしれない。
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この作品は実話に基づく文字通り凶悪犯の話。「冷たい熱帯魚」のような嫌悪感が残るだけの作品かと見始めは思ったが、グロい映像も我慢して終盤までくると、主題はそこではなかったと分ってちょっと唸った。度を越えた凶悪犯だけを描いたものなら、特別なだけであまりメッセージ性はないけれど、この作品の主題は私たちに深く関わっている。
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凶悪犯に関わった普通の人(雑誌記者)が懸命な裏取り取材で事件の大元となる犯人とその人物像を確信して、彼の中の何かが変わり、こんな奴「死ね!」と本気で思いはじめたとしたら。そしてそれが彼の正義感から来たもので、その信念に突き進み始めたとしたら、ちょっと怖い。それは私たち普通の人間も陥るかもしれないことだから。正義感には美しい面もあるけれど、危険な側面もある。
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もちろん頭の中で考えるだけなら何も悪いことはないし、何を考えようが自由だ。でも、考えが言葉を生み、言葉が行動を生む。だから「死ね!」という言葉は不気味なのだ。