ひでやん

恐怖と欲望のひでやんのレビュー・感想・評価

恐怖と欲望(1953年製作の映画)
3.5
完全主義者のキューブリックが本作を「アマチュアの仕事」として、プリントのほとんどを自ら買い占め封印したため幻となった作品。デビュー作とされる「非情の罠」以前に手掛けた戦争ドラマ。

敵陣内の森に不時着した4人の兵士が、自陣を目指して脱出する姿を描く。

若き日のキューブリックが低予算の自主製作で完成させた本作。山中の4人が映し出され、軍服を着た男が「敵陣に10kmも入った」と言えば、そこはもう戦場。

監督自ら封印した作品はどれほど酷いのだろうと思ったが、切れ味のあるカット割りや巧みなカメラワークが随所にあった。

小屋の奇襲攻撃で、クローズアップされた顔や手などの短いショットの繋ぎや、転がる死体のアングル、シチューを貪る描写に鬼才の片鱗が見えた。

奪う欲望と敵に襲いかかる恐怖。
女性への欲望と置き去りの恐怖。
脱出の欲望と発見される恐怖。

目の前に希望のイカダを、対岸に敵のアジトを置いて、極限状態の心理を62分で描いたキューブリックは流石。
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