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マレフィセントのsanbonのレビュー・感想・評価

マレフィセント(2014年製作の映画)
3.6
これこそが王道「ディズニー」。

今作は「眠れる森の美女」の亜流として「マレフィセント」と「オーロラ姫」の関係性を一新させた、完全なる"パラレル"として作品を再構築している。

とはいえ、僕にとってマレフィセントは、どちらかと言えば「キングダムハーツ」の方に馴染み深いキャラであり、ベースとなったアニメ版については、正直観たかどうかさえも曖昧な程記憶にない為、"魔女が姫に永遠の眠りにつく呪いをかけ、それを王子のキスで目覚めさせる"という「白雪姫」と被るうえにかなり雑な大枠でしか認識しておらず、なぜマレフィセントがオーロラ姫に「呪い」をかける事になるのか、その理由さえとんと思い出せない。

なので、何処から何処までが今作で設けられた新要素なのかは正直定かではないが、それでも今作の筋書きがディズニー作品における王道である事は理解出来た。

まず、今作でのマレフィセントは完全に人ではない別の生命体として設定が変更されており、妖精達が暮らす森の守護者のような存在として登場する。

そして、ディズニーのお約束と言えば主人公になんらかの不幸や悲劇が訪れて物語の幕が上がる事だろう。

ディズニーが得意としている構成は"下げて上げる"方式の場合が多く、必ずマイナスからのスタートを見せるのが常套手段となっているが、今作も例に漏れずマレフィセントは信頼していた人物の私欲によって裏切られ、大事な物を奪われてしまう。

その積年の恨みが今作における呪いのトリガーとなり、オーロラ姫は身代わりとして「16歳の誕生日に糸車の針で指を刺し永遠に覚めない眠りにつく」呪いをかけられる展開へと繋がっていく事になる。

そしてディズニーの王道は、主人公の"ポジション"によって筋書きが二通りに分岐する。

一つは、主人公が善人だった場合。

こちらは、王道中の正道として、様々な善行を繰り返す過程で必要な経験値、または仲間や道具を順調に入手して、最終決戦に臨むという展開。

そしてもう一つが、主人公が悪人だった場合。

こちらで主に描かれるのは「改心」であり、今作は正に後者の展開が採用されている。

呪いにかけられた後、オーロラは妖精3人組に"Xデー"が過ぎ去るまで、人里から隔離された森の奥深くで育てられる事になるのだが、この3人が揃いも揃って子育てには全くの不向きで、オーロラを危険な目にばかり合わせてしまう。

それを、マレフィセントが長年にわたり陰で手助けを続けるうちに、オーロラに対していつしか愛情が芽生え始めていくのである。

そして、主人公が悪人だった場合には、改心の後に必ずもう一つの要素がセットで展開される。

それが「後悔」である。

ディズニーのひねくれ(真っ直ぐでない)主人公は、改心した後自らが犯した過ちを必ず後悔しなくてはならない。

それが、メインターゲットである子供に対する"戒め"になるからだ。

今作でも、愛するオーロラに自分でも解除不能な程強力な呪いをかけてしまった事に、深い後悔を見せる場面が用意されている。

その為、原作で呪いを解く役割である筈の王子のキスは今作では無効となっており、打つ手なしの絶望的な状況に立たされてしまうのであった。

さあ、ここまでくればディズニーの王道クライマックスといえば、勿論"あれ"である。

そう「奇跡」が起きるのだ。

奇跡とは便利な言葉で、要するに不可能が可能になるという事をあらわしているのだから、例えどんな困難が立ち塞がろうと、絶体絶命な状況であろうと、仮に一度死んだとしても、奇跡の前では必然的に全てが覆るように出来ている。

今作は、徹頭徹尾この王道パターンに嵌めていく形で物語が展開されていく為、もともとの名作をセルフ改変するという斬新さがありながらも、感触としてはとても"クラシカル"な感覚で安心して観進める事が出来る為、バランスとしてはとても安定していたと思う。

しかしその反面、王子の存在など持て余し気味な要素が生まれてしまうなど、詰めが甘いと感じるところがあったのは少し残念であった。
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