ヨーク

ウォーム・ボディーズのヨークのレビュー・感想・評価

ウォーム・ボディーズ(2013年製作の映画)
3.6
カリコレ4本目。
この『ウォーム・ボディーズ』という映画、あらすじ紹介にゾンビの3文字があったので去年のカリコレで中々のがっかり作だった『江南ゾンビ』が脳裏によぎったのだが結果としては杞憂であった。というかむしろ普通に面白かったわ。これは意外でしたね。別に『江南ゾンビ』を引き合いに出さなくてもゾンビ映画なんていうものは大概が限界ギリギリの低予算映画でカリコレ然り未体験ゾーンの映画たち然りの通常では劇場上映されないキワモノを取り扱ったものである可能性が高いのである。しかし本作は大作とか言うほどではないにしてもそれこそ『江南ゾンビ』何かと比べたらマジで予算の桁が一つ違うんじゃないかというくらいにはちゃんと金をかけて作ってあったので、正直『江南ゾンビ』を比較対象にするのはアンフェアがすぎるというくらいにはしっかりした映画でしたね。
お話は王道的なゾンビものというよりは変化球的なもので、一言で言えばゾンビ恋愛モノという感じですね。主人公はゾンビ化してしまって特にやることもなく空港をさまよい続けている20代前半くらいの男。本作のゾンビは呪術や魔術による類のものではなくておそらくケミカルなものなのだと思う(ハッキリしたゾンビ化の原因は明言されない)が、肉体が変わり果ててしまっても精神はギリギリで保たれているようで彼の第三者的(肉体を自分の意志でコントロールできないので正に)な視点でのモノローグで序盤は進むことになる。なんでもある日ゾンビパニックが起こって世界は大混乱、人間たちは自分たちの居住地の周囲に高い壁を建設してゾンビの流入を阻止しながらジリ貧なサバイバル生活を送っていたというゾンビものとしてはよくある世界観なのが語られる。もちろん、人間たちはゾンビ共はコミュニケーション不可能な感染者であり憎き敵でもあるという認識なので主人公たちが内心ではまだ人間性と呼べるものを何とか保持しているなどということには全く気付いていない。そんな折、人間たちが物資調達のためかなんかで出かけた先で主人公たちのゾンビ集団と鉢合わせ。ゾンビにはギリ自意識が残ってるとはいえ空腹時には理性が吹っ飛んでしまうのでそのまま戦闘に突入。人間集団の中にいた若い女の子も食われそうになるがなんと主人公ゾンビがその子に一目ぼれして彼女を庇い、生きたまま空港へと連れ帰るのだが人間とゾンビの恋は果たして…というお話ですね。
まぁまぁ変化球寄りのゾンビ映画だとは思うが、しかしぶっちゃけゾンビと人間との恋愛パートとかはベタでそんなに面白いものではなかった。ややネタバレになるかもしれないが心に温かみを感じる度に人間性を取り戻していって愛があればゾンビも…という展開になるのだが、本作で面白かったのはその部分ではなくて主人公である青年ゾンビがゾンビとしての日常生活を送っている部分だったんですよね。どうも主人公は音楽が大好きだったみたいで旅客機の中を自室に改装してそこで好きな音楽を聞いて過ごしたりしているのだが、ゾンビだから大好きな曲を聞いてもノリノリで踊ったりはできなくて、うー…あー…という呻き声を上げることでしか楽しさを表現することができない。その悲哀感とか最高でしたよ。というか、主人公以外のゾンビたちも脳の片隅に残ってる生前の生活習慣を繰り返している姿が哀愁を誘う。冒頭に印象的に描写される空港の手荷物検査ゾンビの哀愁とかは泣きそうになったね。
そんな感じで、生存者たちを脅かす恐ろしきゾンビたちもかつては人間だったしそこには彼らなりの生活があったんだよということを何となく感じさせてくれる映画で、その辺が面白かったですね。ゾンビにも生活があるんだよ映画です。
あとはそうだな、恋愛パートも含めた上で本作は色々と異なる立場の相手(作中では人間とゾンビだが)との間に壁を作るだけではダメだよねっていうやや教訓的なテーマも含められているんだけど、この映画が10年以上前の映画だということも踏まえたらちょっとグッときてしまったところもあった。そのラストは不覚にも感動してしまったな。まぁ感動というかそこは11年前の映画が描いたことと現実は逆になってしまったな、という悲しみでもあったが、思うところのある映画ではありました。
自分と他人を敵か味方かでしか判別できなくて、そこに壁を作ることにばかり腐心するのは現代の病理の一つではないかと思うが、そんなのバカらしいぜって11年も前の高尚でも何でもないただのゾンビ映画でも描かれてるのにさ、実際にはウクライナ戦争もイスラエルの暴走も止まることはなくてSNS上でもお互いを分断するための壁ばかりが築かれていく世界になってしまっているのである。こんなB級映画に真顔で説教されてんじゃねぇよと思ってしまうほどに不甲斐ない現実である。
まぁその辺は今現在の状況で本作を観るとそういう風に思っちゃうよねという部分であり、作品自体は説教間などほとんどないまぁまぁボンクラなゾンビものってだけですけどね。でも映画に限らずだけど何らかの物語を受け取るときに、望む望まないに関わらずそこには時代性が伴った上でしか受け手側は受け取ることができないのである、ということを示す作品であったと思う。少なくとも2024年に7月の時点では。遠くない将来に本作を観ても、なんだよこんなの当たり前のことじゃん、と思われる世界になっていることを祈るばかりである。
ゾンビ映画としてはまぁまぁ面白かったです。
ヨーク

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