Melko

ラストエンペラーのMelkoのレビュー・感想・評価

ラストエンペラー(1987年製作の映画)
3.7
"She is not my wetnurse. She is my butterfly."

「あなたは紳士か?」
「紳士になりたいと、努力しております」
「自分の意志も言えない朕は、紳士ではない。」

彼にとって、人生とは何だったのか。

長い間📎したままだった作品。
その昔、20年以上前、通っていたピアノ教室の3クラス合同で、エレクトーンの発表会に出た。演奏したのが、「ラストエンペラー組曲」
各クラスの先生達が作曲した1曲を含め、テーマ曲をいくつか演奏した。
元となったこの作品について、当時、坂本龍一という有名な作曲家が曲を作ったものと教えられ、先生から超簡単なあらすじは聞いたものの、親に聞いたらラストエンペラーの曲を小学生が演奏することには驚いてたけど、「長いし、内容が難しいからあれは大人が観るモノ」と言われ、結局一度も作品を見ることなく曲だけ演奏。場面に対して何のイメージも湧かなかったが、何やらとにかく壮大な物語なのだと言うことは、メロディから伝わってきた。

歴史好きのうちの母親にとって、溥儀のその生涯は、なんとも切なく哀しいものなのだそうで。

愛新覚羅溥儀、清朝の最後の皇帝にして、満州国の傀儡皇帝
歴史に翻弄され続けたその生涯

悪名高き西太后よりその地位をわずか3歳で受け継ぎ、清国の皇帝となった溥儀。
城の中を無邪気に走り回り、はためく黄色い布を開けると、何百人もの家来が…その光景たるや。
いわずもがな音楽は良い仕事してるし、役者の演技も申し分ないと思う。(溥儀役のジョンローンって、ラッシュアワー1のあの悪役だったのか)
ただ、少なからず溥儀の人生の濃さと出自と歴史に翻弄されたことを知る身としては、およそその物語が160分で収まるわけがないことは容易にわかる。時間が無駄に長い映画はあまり好きではないけど、これに関してはオリジナル210分版を見てみたくなった。
結構色々端折ってる気がしたし、演出自体も溥儀にグッと寄り添うところもありつつ、全体としては清国と満州の崩壊を俯瞰で捉えているように思えて、結構ドライな描き方されてるなという印象。
あくまで主役は溥儀だが、歴史叙事詩的な。

幼い頃から何もかも周りにやってもらい、籠の中から出られなかった哀しき男。
靴紐を1人で結ぶことすらできず、家族と離れ不安に駆られる。
名ばかりの皇帝は、自分の手で何かを支配したかったのだろうか。もしかすると、生まれてから一度も、何の手応えも感じない人生だったのではないか。
元来頭が良く、探究心もあったであろう溥儀。

紫禁城=Forbidden City
自分の知る世界はあまりにも小さく、外の世界は激しく変わろうとしていた。ボスが自分の他にいると知った時の溥儀の涙
もし、同じ歳の友達が大勢いて、普通に遊んだり勉強する人生を送っていたなら。
タイミングが少し違っていたら、皇帝として復活することもあったかもしれない。そう思わせる終盤の展開。晒し者になる、かつての恩師

乳母アーモを”butterfly”と言った。聖母のような彼女に恋していたのか。
結婚相手にも側室にも、肉の愛ではない心の愛、アーモに抱いたような愛は与えられなかったか。

溥儀役のジョンローン、若々しい20代〜晩年の60代を見事に演じ分けていた。

圧巻の人数のエキストラ
やっぱり棒演技の坂本龍一
男装の麗人 怪しい東洋の宝石
哀しき運命の正室 婉容

もう少し清国や満州、溥儀に関する歴史を勉強してから再度、今度はオリジナル全長版を見てみたい。
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