ジャン黒糖

自分の事ばかりで情けなくなるよのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

3.1
監督で観る映画。
今回は松井大悟×クリープハイプ×池松壮亮①。

【物語、というか概要】
元はクリープハイプのMVとして撮っていたショート作品に、本作でいう4篇目にあたる「傷つける」を追加し、1本の長編映画として構成しなおした本作。
4つの作品それぞれに出てくる脇役が次のエピソードの主役となり、それぞれが共有された世界観にもなっている。

①「オレンジ」
https://youtu.be/PO-IaIg_JuU
②「社会の窓」
https://youtu.be/novmIPZxylE
③「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」
https://youtu.be/GpADSdd68UI
④「憂、燦々」
https://youtu.be/qU-mi_S68Dk

【感想】
4つのエピソード、それぞれに各話の主人公がさりげなく出演し、それぞれの"その後"を見せるなど、世界観の共通項を感じる一方で、それぞれのエピソードの画作り、カラーリング、話のトーンなどはバラバラにある。
元々はMVとして作られていたということもあり、それぞれに異なるイメージを抱く。

ただ、この4つのエピソード、いずれにも、程度こそ異なれど共通して、主人公たちの"社会、他者に対する不適用な自分に対する自己肯定/否定"が描かれている。

1つ目のクミコは、大塚のピンサロ で働く風俗嬢という、彼氏・家族には到底言いづらい職業を選択した自分に対する自己否定と、それでもそこで働くことに決めた自己肯定。
2つ目のミエは、上司との関係は認めてはくれず、同僚からは態度を指摘され、仕事を押し付けられ、その結果好きだったクリープのライブにも行けない自分をイヤになるが、最後には…。
3つ目は好きだった女性アーティストの引退で、ラストライブにも関わらず自分以外の誰も応援していない寂しさと、それでも応援し続ける気持ちと、もう今後彼女の歌声を聞くコトのできないもどかしさから来る衝動。
そして4つ目は、リクオは大して働くこともせず、ユーナには体で稼がせようとする、周りの人間には暴力・暴言の連続。一方のユーナは、そんなリクオを支えるためにも働く意志はあるが、行動に出ようとすると怖気づいてしまう。そんな2人がどういった決断をくだそうとするのか。

作品のテイストはそれぞれ異なれど、通底する"社会、他者に対する不適用な自分に対する自己肯定/否定"というテーマは一貫しており、それは同時にクリープハイプの使われている楽曲の世界観を見事に反映してもいる。
まさに映画タイトルどおり、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』。

ただ、映画に向けて作られたという4篇目の「傷つける」が他3篇に比べると話が長く(時間にして約1時間弱)、その割にテンポのたっぷり間を取るので、正直面白いかと言われれば微妙。
そして「憂、燦々」のMVで受けるユーナの印象と本作も微妙に異なる。

かたや、3篇目のツダのエピソードは本当にMVを見ているまんまとも言える。
(ちなみに大東俊介というれっきとしたイケメン俳優がツダを演じてる凄みと好感を感じる反面、所詮はイケメンだろバカにすんな!とも思ってしまった…笑)

そのため、観終わった読後感としては1、2篇目がどうしても良く見えてしまう。

特に4エピソード中、最もクリープハイプとの"距離"が近い2篇目「あたしの窓」は、上述のとおり、仕事漬けのミエにラストにはしっかり感動する"ご褒美"が待っており、これについては自分はあまりクリープハイプのライブまでは詳しくはないので知らないが、あの"シーン"は本当のライブの一場面だったとしたらこれは泣いちゃうよな、と。


いまのテレビ番組でYouさんたちとレギュラー番組に出演するようになった尾崎世界観からすると、まだ尖っていたころの彼らと、まだ新進気鋭の20代映画監督としてギラついていた松居大悟監督が、自分だったらこういう"世界観"を作れるんだぜ、というギラついた野心みたいなものを感じる1本。
ジャン黒糖

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