SUI

グランド・ブダペスト・ホテルのSUIのレビュー・感想・評価

5.0
基本的にテンポが良く、間の取り方の塩梅がなんとも秀逸。
この感性だけをもって作品が構築されていて、オーバーな演出や展開に奇をてらい過ぎていないところが好印象。
これはもうセンスだよなと言わざるを得ない。

わかりやすいところで具体的にいうと、マダムDの相続執行人のコヴァックス(ジェフ・ゴールドブラム)が探偵のジョプリング(ウィリアム・デフォー)に拘束され、扉に挟まれた指が落ちるところ。
ここでスプラッタな血糊どころか、絶叫すらさせずにただボトボトと指が転がるだけ。それだけで充分痛さや怖さ、絶望感などの不穏な空気感が伝わるし、見ている者に「え?」という驚きまで与えることができる。

個人的に脱走のくだりがとにかくツボ。
淡々とザクザク看守を刺し殺すギュンター。迎えにきたムスタファは強面のルードヴィッヒ(ハーヴェイ・カイテル)から「グッドラックボーイ」と言われて唐突にビンタされる。こんなん笑うわ。
上手いことハマっているのが若かりし頃のミスタームスタファこと、有吉弘行似のトニー・レヴォロリという役者さん。彼の表情がまた何とも言えない。

ド派手な爆破やアクション、過剰な演出に頼ることなく淡々とテンポ良くシンプルに物語を描き出す。それだけでこれだけの作品ができちゃう。
単純そうに見えるけど、これには独特の感性や独自性を要するので一朝一夕でできるものではない。
淡々としている分、ここぞといった盛り上がりには欠けるようにも感じるけど、この独特な雰囲気はそれを補って余りある。

邦画が目指すべきはここなんじゃないかなと思う。
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