きなこみるく

鑑定士と顔のない依頼人のきなこみるくのネタバレレビュー・内容・結末

鑑定士と顔のない依頼人(2013年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

「騙していいのは、騙される覚悟のあるやつだけだ」

見終わって一番最初思い浮かんだのは、自業自得、因果応報という言葉だった。
とはいえ、若者が孤独な老人を騙してすべてを奪うというのは、見ていて楽しいものではないが。

「顔のない依頼人」というわりには、あっさりクレアの顔を晒すんだなぁ、と思った。
しかし、結局それは偽りの顔で、彼女の「本当の顔」は最後まで見ることができない。顔のない、とはそういう意味なのだと結末を見て納得した。

原題は「The best offer」
この言葉は作中で、オールドマンの詐欺の合図として使われていた。
こちらのタイトルも色んな意味を想像できて面白い。

冒頭と最後のシーンが印象に残っている。
ウェイターが運んできたバースデーケーキには1本のロウソク。それが燃え尽きるのを暗い瞳で見つめるオールドマン。
誰に吹かれるでもなく消えるロウソクが孤独な老人と重なって切ない気持ちになった。
そしてラストシーン。
クレアと行くはずだったレストランでひとり席につくオールドマン。周りはカップルだらけで賑やかだ。
「連れを待っている」
未だクレアの愛を信じているのか。いや、信じていないと心を保てないのだろう。

孤独に始まり、孤独に終わる。
なんとも悲しい映画だ。

個人的にこの映画はあまり楽しめなかった。
中盤からラストの展開が読めたからだと思う。
肖像画が盗まれたところの衝撃も薄かった。

どうしても最初から最後まで、クレアがオールドマンを愛しているようには見えなかった。
主人公が「外の世界も知らないくせに!」とクレアに怒鳴るシーンがある。
しかし世界を知らないのは主人公の方だ。
若い女性が大富豪に愛をささやくのは、たいてい資産目当てなのに。
ロバートの不自然な台詞と視線や、不自然にスポットライトに当たる本物のクレアも、あまりに分かりやすかった。
伏線が伏線しすぎているというか。

主人公が騙されていると分かった上で、もうひと展開あると面白かったと思う。
主人公が気づいて逆に騙し返すとか、クレアが心変わりするとか。
でも、絵の中の女性しか愛してこなかった彼を盲目にさせるには、あの恋で十分だったんだろうと思う。

廃人になったオールドマンを見るのは心が痛んだ。そこにかつての紳士の面影はない。
しかし、自業自得だと私は思う。
だから、騙したあの詐欺集団もいつか痛い目にあって欲しいと願う。