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ルートヴィヒのsoffieのレビュー・感想・評価

ルートヴィヒ(2012年製作の映画)
4.0
2012年公開

ドイツ配給映画

第4代バイエルン国王ルートヴィッヒ2世の生涯を、ルキノ・ヴィスコンティ監督が1972年にヘルムート・バーガーを主演に制作した映画より、
さらに現実的な「王の日常」と
「少年時代に心を奪われた騎士道」
「質実剛健、質素倹約の父である国王との確執」「突然の戴冠」
「ワーグナーとの出会いと別れ」
「婚約と破談」「弟の発病」「同性愛への葛藤と苦悩」
「政治を放り出して夢の城の築城に生きた」「生涯」にスポットを当てて、ドイツがおらが国の観光資源の王様を本気出して彼が生きたお城や薔薇島、黄金の馬車を実際のロケに使用して豪華絢爛に制作した映画。

「永遠の謎でありたい」と願った国王

感想は、とても美しかった。
脚本は嘘偽りなく史実に基づいている。

ヨーロッパ王家随一の美貌と言われた
身長191(192)cmの長身
端正な美貌
繊細過ぎる精神と15歳で観たワーグナーの「白鳥の騎士ローエングリン」に対する死ぬまでこじらせた厨二病
列車も車も走っていた時代に
偉大なるフランス国王ルイ14世に傾倒して16世紀の王の生活を再現させて暮らした、国費を費やしたコスプレ生活。

戦争で国の財政が苦しい中
「音楽で戦いの無い世界を作りたい」と本気で大臣の前で話し、閣僚を困惑させた夢見る王様は彼が築城した城の土地を自ら探し、城の細部に渡るまで想像して設計させた。

傾国の狂王と呼ばれたが、後にルートヴィッヒの城とルートヴィッヒの存在はドイツにとって大きな観光資源になっている皮肉。

ルートヴィッヒは国王になってから、国民の為にも、国の為にも国王として国政に殆ど携わっていない。

「なぜ私の考えが分からぬのだ…」

と苦悩すること20年。
金と国益に命を捧げる政治家達を退け
馬の厩舎長や理髪師、乗馬係など見目麗しく、自分を敬愛する者を身近に置き立場を与えた。

マリーアントワネットがベルサイユ宮殿の一角プチ・トリアノンにお気に入りの貴族だけを呼んで、王宮の上級貴族を無視して過ごし、嫉妬と反感を買い革命の一端を自ら作ったのと同じ事をルートヴィッヒはしている。

私は物心ついた時からルートヴィッヒが大好きだった。
彼のお城の写真集を宝物にしていつか行きたいと思っていた。
本当に白鳥の城と呼ばれるノイシュバインシュタイン城とその近くのルートヴィッヒが少年時代を過ごしたホーエンシュバンガウ城に行った時、その現実を見て
「え…本当にここで育って、ここに居たの???」と独特の不気味さを感じた。

それはベルサイユ宮殿やフォンテンブロー宮殿に行きルイ14世やルイ15世、マリーアントワネットやナポレオン、さらにもっと以前のヴァロア朝の王族に思いを馳せた時とは全く異なる、物凄い閉塞感と暗さを感じた。
「本当に病んでたんだ…」とひしひしと感じてから、ルートヴィッヒへの感想は
「時代錯誤のズレた人」に変わった。

「生まれてくる時代を間違えた王様」という表現を読んだことがあるが
150年ほど生まれる時代を間違っていたかもしれないと思う。

でも、150年遡ってルイ14世の時代にドイツの一国家の国王に生まれていても、あそこまで騎士道のロマンに執着していては、さらに遡って「十字軍」の時代に固執したかもしれない。

偉大なる作曲家リヒャルト・ワーグナーの人生最大のパトロンであり、理解者であろうとした夢見がちな青年国王は
ワーグナーにとって
「自分の才能と偉大さを後世に遺させるための最大の道具」だった。

ルートヴィッヒは死ぬまで童貞だったか(いきなり下ネタですみません)という問題も人生の大問題だ。
色んな解釈があるだろうが
私は西洋占星術でその人が持って生まれた星の性質でその人の本質に触れる時がある。
ルートヴィッヒが同性愛傾向にあったのは本当だろう。
さらに生涯女性経験が無かったのも本当だと思う。
お気に入りの美男の側近との関係については完璧な潔白とまでは行かなくても、キス以上の事は罪の意識と美意識がそれを許さなかったと思う。

それくらいルートヴィッヒの生まれ持った星は「潔癖」かつ「ロマンティック」まるで「高潔な処女」

美しい青年時代に「貴方をこの腕に抱けるなら死んでも構わない」と無理やりにでも貞操(?)を奪うフランス的捨て身の美男子が現れなかった不幸は、一生ルートヴィッヒに人間の3大欲求の一つが死ぬまで満たされない拷問を与えた。
ルートヴィヒは攻受で言うと完璧な受けだろう、だけど男性であるプライドと19歳という若さで国王に戴冠してしまった運命がさらに彼を頑なにして、
その欲求不満が変質的に偉大なる過去の王と美しい騎士道の白鳥の騎士への傾倒を促した。

(同じ国王でありながらフランスのルイ14世の父、ルイ13世は女性が大の苦手の同性愛者だったが、年上で美男の相談相手の寵臣の恋人がいた。
母親と重臣から矢の催促を受け人生でたった2回だけ妃と性交渉を持ち、2人の男子を産ませてその一人がルイ14世になったことを思えばあっぱれだ。…余談だがこのルイ13世の恋人の城は現在古城ホテルとなっている。)

身近に使えた者と、ルートヴィッヒの時代に国を動かした閣僚や役人達は気が狂いそうだっただろう。
実際、実の弟のオットーは錯乱して発病している、家系的に病みやすい傾向はあったようだが、全く自分の世界から出てこない兄と、家族と閣僚の間にいた弟は常に板挟み状態でさぞ神経をすり減らしたことだろう。
そして何度も
「貴方が国王なら良かったのに」と耳元で囁かれもしただろう。

豪華絢爛な王宮と「永遠の謎」になりたかった王様、スイスで暗殺されたヨーロッパ王家随一の美貌の妃エリザベートを従姉に持ったルートヴィッヒ

エリザベートはその生涯があまりにも美しく悲劇的だった為に「死神トートに愛された姫君」として「エリザベート」というオペラまで出来ている(宝塚でも上演されている)

ルートヴィッヒのオペラが出来ないのは、人生の後半太ってしまったからだろうか…。ワーグナーがくたびれたオジサンだったので絵にもならないし…。
彼は19歳の戴冠から20年の在位中
現実の人間と恋をしていない稀に見る王様。(もったいない!)

エリザベートは美しく悲劇的な人生がオペラになっているが
結婚も出産もして王子を産んでいる
そして息子が理想の女性と崇めるほど死ぬまで美しかった。

やはり、ルートヴィッヒは恋も結婚も無い人生だったのでドラマにならないのか🤔

そんな事をふつふつと考えさせられる
実在した王様の物語。

婚礼用に製作された太陽王ルイ14世をイメージした黄金の馬車が実際に走るシーンはまるで夢のように美しい。

ヨーロッパ王家好きと、当時のドイツに周辺の政治に興味のある人にはたまらない魅力ある映画。

ビスマルクやナポレオン3世も出てくる。
バイエルン国王の生涯が描かれた映画。
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