Rick

ボーイのRickのレビュー・感想・評価

ボーイ(2010年製作の映画)
4.2
 憧れの人ほど、盲目にさせるものはない。一度心の中に育った憧れの感情は留まるところを知らず、目の前にいる人を飾り立て、誰よりもカッコよく見せてしまう。たとえ、その人がどうしようもないほど弱く、悲しい人であっても、ヒーローにしてしまえる。でもそのメッキも、長く続くものではないのかもしれない。輝かしいヒーローが、色褪せてやつれたただのおじさんにしか見えなくなって初めて、人と人との対話が始まるのではないか。父と子という不均衡なものではない、人間同士のやりとりが。
 正しく『ジョジョ・ラビット』の原型となるような、「理想の父親」という幻想の克服と少年の人間的な成長が描かれている。「有望」だと盲目的に信じられることは確かに人生を輝かせるのかもしれないが、それで見落としてしまっていることも数多くあるはず。「特別」な人などいないし、自分も別に「特別」な訳ではなかったと悟った時、喪失感と同時にちょっとした安堵も感じられる気がする。結局のところ、どうしようもなさを抱えながらでも、ちょっとずつ歩いていくしかないのだろう。タイカ・ワイティティ監督の「何者でもない人たち」に向けられる優しい視線が心地よい。
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