Azuという名のブシェミ夫人

はなしかわってのAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

はなしかわって(2011年製作の映画)
4.2
NY、マンハッタン。
ジャズドラマーでありながら、窓の輸入、広告の製作、物の修理等々、多様な仕事を掛け持ちしている主人公ジョセフ(D.J.メンデル)。
多才と言うべきか、方向が定まらないと言うべきか・・・今日も工具の入ったブリーフケース片手に街を歩き回る。
人から人へとお人好しな彼が関わっていく事で、本人すら思いがけないような繋がりが生まれていく。

うん、素敵だね。
なんて心地良いんだろう。
景色、音楽、セリフのテンポと言葉のチョイス。
ジョセフの歩くマンハッタンの街並みが目を楽しませてくれる。
それは観光的なものではなく、暮らしに沿った美しさ。
そこで生活する人々や建物が吐き出す呼吸で造られた美しさなんだろう。
真っ赤なコートをさらっと羽織り、イエローのバッグを持ってブルックリン橋に佇む女性。
暗い店内に黒づくめのジョセフ、そこへ投げられるレモンの黄色。
鮮やかなブルーのガウン、街を走るイエローキャブ。
色彩のコントラストが素敵。

一見ヒットマンか、保護観察中の危ない男かと思われるような怪しい風貌のジョセフ。
でも本当はとても心優しく、困ってる人に手を差し伸べずにはいられない。
自分の人生の歯車さえ上手く廻っていないにも関わらず。
他人には手助けをするのに、自分自身の悩みは見栄が邪魔して誰かになかなか甘えられない。
なんて面倒くさくて、愛おしい。笑

ずっと傍にいたら、出てきた女性陣たちのようにウンザリしちゃうのかもしれないのだけれど、人生がなんだか上手く行かないと思える時に、きっと彼に会いに行きたくなると思うのだ。
人生を足踏みして過ごしているように見える彼が、私の背中を押しだして、前に進む一歩をくれる気がする。
だから、あの街の彼に会いに行く様に、たまにこの映画を観たくなるだろうと思う。