エディ

コーヒーをめぐる冒険のエディのレビュー・感想・評価

コーヒーをめぐる冒険(2012年製作の映画)
3.6
親に黙って大学を中退し、活気のない人生を送っていた主人公が、コーヒーを飲めなかったことで歯車のずれた災難のような一日を過ごすことで、生きる何かを見つける姿をユーモラスに描いた映画。
いつまで経っても自分の生き様を見つけられないもどかしい現状を、いつまで経ってもコーヒーが飲めないシーンで表現しているけど、映画が言いたいのは決してコーヒーではない。

主人公ニコは大学を2年で中退したのだが、親には告げず今だに仕送りを受けているモラトリアムな存在。彼女との関係もうまく言っていないニコは、ある朝彼女の勧めたコーヒーを断って家を出たが、免停は決定されるは、上階のおっさんに絡まれるはで散々な目に遭う。旧友マッツェの誘いで出た場所で、10数年前の学生時代の同級生で今は劇団員のユリカに出会い、その晩の公演へ招待されるが。。。

この映画は、主人公であるニコの浮ついた生き様を、「運悪く飲めないコーヒー」に喩えて描いているのだと思う。免許更新のオヤジ、上階のオヤジ、そして実の父・・・どいつもこいつも、漫然と生きているニコの生き様をしつこく詮索する。シーンはコミカルではなく、むしろ不快なくらいだが、そのような生き様を選んだのは彼自身なのだ。

何をしたいか判らないからなんとなく大学を中退したが、親に言いたくないし、しかし、何をして良いかわからない。。。易きに流れる生き方をしてきたニコは、10数年前の同級生だった通称「デブリカ」と過ごすうちに変わりだす。彼女は寄宿学校で矯正させられたくらいの超肥満だが、今を必死に生きている。

そして、親友と一緒に行った麻薬売人マルセルの家の婆ちゃんとのシーンでもニコが変わったのが伺える。それまで受動的で流されるだけのニコだったのだが、麻薬ではなく自発的に婆ちゃんの元に行き、穏やかで至福の時間を過ごしたのだ。

そして、ナチスの時代から生きる爺さんとの語らいで、ニコは生まれ変わった。

爺さんフリードリヒは、幼少時代を振り返って言う。父は石を握らせて「お前の底力を見せてみろ!」、と。

バーで会っただけなのに、ニコが最後までついていったのはその言葉に打ちのめされたからだと思う。

そして、ニコは確実に変わる。

どう変わったかまで映画は記していないけど、少なくとも、この映画で見せてくれた情けない生き様よりはるかに男らしい生き様で生きていると感じる。その意味で、この映画はコミカルでシニカルだが、成長の余韻を感じさせてくれるのだ。

と書くと判るように、この映画は邦題の「コーヒー」は大した位置づけではない。

いつまで経っても自分の生き様を見つけられないもどかしい現状を、いつまで経ってもコーヒーが飲めないシーンで表現しているけど、映画が言いたいのは決してコーヒーではない。

その意味で邦題は激しくミスリーディングだ。

邦題だけ見ると、「コーヒーを探す旅」に思えるだろうが、この映画はモラトリアムの青年の自分探しの映画だ。

原題は「Oh Boy」なので、自分なら「ガキなんだから~」ってタイトルをつけたと思う。
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