茶一郎

フォックスキャッチャーの茶一郎のレビュー・感想・評価

フォックスキャッチャー(2014年製作の映画)
4.6
「カポーティ」「マネーボール」のベネット・ミラー監督作品

『デュポン氏は人生の師です。』

 ベネット・ミラーの静かで落ち着き、かつ重い演出が光る、大財閥の御曹司ジョン・デュポンと五輪の金メダリストを取り巻く圧倒的なヒューマン・ミステリー。久々に清々しい気持ちで劇場を出られました。

 特筆すべきはジョン・デュポンを演じたスティーブ・カルレです。「40歳の童貞男」からは想像できないシリアスで見事な演技。狂気を孕んでいるのはその横顔。これはメイク・アップアーティストと役者の勝利でしょう。画面上で強調されるデュポンの横顔と不気味な笑顔がラストでは……ついに……この横顔のためにスティーブ・カルレがいるといっても過言ではないと思いました。

 「カポーティ」「マネーボール」そして今作「フォックスキャッチャー」とベネット・ミラー監督作品のテーマが一つ見えた気がしました。「カポーティ」では書き手としての『孤独』、「マネーボール」では挑戦者としての『孤独』、そして今作では……

 圧倒的なエンターテイメント作品でした。実在のデュポン氏は何故、自身のレスリングチームを『フォックスキャッチャー』と名付けたのか。まるでこの物語のラストを暗示しているようなチーム名がノンフィクションではないことが非常に興味深かったです。
 仮に最後の結果がデュポン氏にとって、チーム『フォックスキャッチャー」にとって、良いものだったとしても、それはデュポン氏本人が本当に狐を捕まえたことになるのでしょうか。
茶一郎

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