イペー

スウィング・オブ・ザ・デッドのイペーのレビュー・感想・評価

4.1
オッサンふたりがイチャつきながら、荒涼とした風景の中を、行ったり、来たり。
周囲をウロつくゾンビと同化してしまいそうな、リビングデッドな日々。

キャッチボールしたり、釣りしたり、無人の家で物資を漁ったり。
大した事件も起こらず、活気のないオッサン達のサバイバルは、たどり着くべき当てもない。

楽観的を通り越してヤケクソ気味なベンと、小心者でロマンチストのミッキー。
かつて地元の野球チームでバッテリーを組んでいたってだけで、親友同士と呼べる間柄なのかどうかも微妙。

忍び込んだ空き家のガレージで見つけた無線機から、自分たち以外の生存者の会話が聴こえたところで、二人の日常にも静かな変化が訪れ始め…。

スローテンポで起伏に乏しいし、全くもって地味!
けれどもレンタルショップの片隅で埃をかぶらせておくには勿体無い、愛すべき良作だと思うよ、思いますよ、僕は。

逼迫する状況もいざ知らず。
ひたすら自分たちの世界に埋没する二人に、終盤で重大な転機が訪れます。

ところが、この期に及んでも物語は通常の手続きを踏まず、大きな展開を拒んでしまう。
結果的に、主人公ふたりはクソ狭い車内に閉じ込められちゃうんですね。

ロメロ版『ゾンビ』を産み落としたニューシネマの時代が抱えていた閉塞感。
そのずっと未来が行き着いた果てには、あのショッピングモールよりも遥かに窮屈な空間しか残されていないという…。

巷の話題をさらう韓国産ゾンビや、大人気の連続ゾンビドラマと較べたら、どうにもショボいのは否めないんですけども。

"もののあはれ"を湛えたこの作品こそ、ロメロゾンビの血脈を正統に継承している…ってのは、ちょっとホメ過ぎかしら。

最初から最後まで、負けっぱなしのオッサン達の姿は哀愁にも、まだ遠く。
ゾンビを季語に、「五・七・五」を詠むような、しみじみとした心に秋風の吹いて停止ボタン…なのでございました。

…そして今更ながら、偉大なるオリジネーター、ジョージ・A・ロメロよ、どうか安らかに。
貴方の作品、貴方の発明は永遠です…。
イペー

イペー