翼

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密の翼のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

『あなたは「みんな」とは違う。』
『彼は「普通」ではない。』
だから国が救われた。多様性を謳う現代ならオリジナリティを活かして世界を救う英雄譚なのに、1950年代頃ともなると超胸糞エンド。これだから史実に基づく脚本はタチが悪い、事実は小説より奇であり酷である。

リテラシーの低いスパイを裁かずにチーム内で泳がせて、リーク情報で敵国をコントロールするって映画みたいなこと、本当にやってたんだろうか。史実に基づいてるなら本当か。文明の進歩が追いつかない差を工夫によって補う様は面白いよねぇ。エニグマの暗号解読には数学者総動員で2000万年がかかるけど、それを扱う兵士のマインドから糸口を見つけて難攻不落な砦を人の知恵で瓦解!みたいなジャイアントキリングはどうしても熱くなる。


残念ながら戦争が進歩を生む。エニグマ解読という使命が『クリストファー』を、後にコンピューターを生む。これを聞いた時、私は不意に中学の理科の授業を思い出した。理科室で座る、座面が丸くて縦に重ねるタイプの椅子。狭い空間に多くの椅子を収納できる仕組みは、爆撃機が一往復の燃料で爆弾の積載量を増やす為の工夫の延長線なんだぞと、授業のなんちゃない隙間に先生が話していた。この話を聞いた時、まさに自分の股の下にあるこの椅子が戦争に繋がってるという数奇さにぞっとした。凄惨な戦争の結果、私たちはコンピューターの恩恵を受けている。先進技術によって数々の映画が生まれ、私たちはアプリでそのレビューをコンピューターの上で綴り共有している。戦争を肯定は絶対に出来ないが、その上の生活に生きているという事実は知っていたい。
ロシアのウクライナ侵攻の最中、2022年という未来のような現代でも戦争は起きるという驚きと哀しみを誰もが抱いていると思う。遠い国の出来事のようだけど、その戦争は股の下の椅子やガソリン価格にだって繋がっている。生活の中に戦争の影響はある。繋がっている。何が出来るわけではないけど、少なくとも戦争映画が語りかけるメッセージに耳を傾けたい。
翼