海

夏をゆく人々の海のレビュー・感想・評価

夏をゆく人々(2014年製作の映画)
-
人が長いあいだかけて踏み固めた土が、とぎれることなく目の前にのびているのを見る、そこは果てしなく広く、見渡すかぎり荒野と真っ青な空が続いていて、不意に痛む身体の奥の方から引き返すなら今だとわたしの声がきこえる。始まりのときも終わりのときもそうだ。いく道もかえる道も遠い。悪魔の目を盗んで少女たちは手のひらに光を汲んで飲み干していく。昼が終わりやがて夜がきても道を照らせるように身体の内を黄金色のかがやきでいっぱいにする。お金は無くていい、名声も無くていい。幸福は無くていい、快楽も無くていい。生きていくことは苦しみだと言ってくれたほうがずっと安心だから。傷つけることさえ恐れずに済んだら出来ないことなんて何ひとつない。だから旅は突然はじまるんです。あなたの影の下で頭を垂れて往くことを誓ったわたしの頬も膝も靴の先もひかりだすときを待ちわびている。死んだ家の中でこだましつづける十年前の笑い声が、寝室を飛び出し廊下を抜けて、玄関の壊れたドアを開けてわたしたちに同じ夢をみさせる、帰ってくる場所はいつでもここにあり、言葉はなく、過ぎていく時もなく、痛みも憎しみもなく、どこにいてもたどり着ける風の中、ただ眠るだけの夢。
海