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悪童日記のan0nym0usのレビュー・感想・評価

悪童日記(2013年製作の映画)
3.5
戦時下の『小さな町』を舞台に、双子の『ぼくら』の視点から描かれる物語。

名も場所も明かさない語り口は、冷酷な現実を半幻想の世界に昇華してくれる。そして、その寓話性の中に存在するのは…
不条理な死と、生きるという熱量。

その対比を喩えるとしたら…

本来は冷たいドライアイスは、触れると火傷しそうな熱さを感じる。相反するものが同居している…そんな感覚に近い。

設定が戦時中である事で、本来の善悪の線引きとしての倫理観が希釈されて、観る者に登場人物たちの『人間性』を注視させてきます。それぞれが人間の何かを象徴していると考えて見ると理解しやすいです。

最も解りやすい描写は、司祭館の女性と靴屋の主人のエピソード。

性的、人間的にいやらしさを含んだ毒婦として描かれた司祭館の女性…人間の悪性。
貧困の中でも子供たちを思いやり、無償の施しを行う靴屋の主人…人間の善性。

人の中には両方が存在している。こうありたい姿がいとも簡単に黒く塗り潰される…そんな苦しい描写として受け取りやすい。

映像として観るとイメージが固定されてしまう作用があるので、やはり映像化には不向きな作品である事は否めないんですが…

犠牲を厭わず実行に移した最後の別離。
どこまでも人の心の在り方を、冷淡に突き付けてくる作風は原作通りの硬質な冷感。

理知的な視点で、とても力強く描かれる…アゴタ・クリストフ著の三部作。

悪童日記・ふたりの証拠・第三の嘘

それを読破した人なら、この映像化作品に不足している部分を補完して観賞に臨めると思います。原作は秀逸なミステリを彷彿とさせる見事な作品。オススメです。

原作既読の私はどうレビューすべきなのか、とても迷いました。

映画としてのこの作品は…主要なエピソードを速いテンポで展開していくので、少し詰め込みすぎていると思います。個人的には魔女と収容所に向かう人々のエピソードは盛り込んで欲しかったかな…待ち望んでいたはずのお迎えを拒否した根拠として、必要だったと思います。

ある程度は忠実で、ある程度は不完全。
出来上がり方がとても人間くさい。

現実的な視点で観る部分。
抽象的な視点で受け取る部分。
それぞれに感じるものがある作品。

スコアも迷います…映画としては及第点。
時間という枠に縛られてしまったのかな。

原作未読でこれを観て興味が湧いたのなら、ぜひ原作を読んでみてください。

第一部の悪童日記はラストに震えます。
三部まで読破すると霧に包まれた森の中で彷徨ってる気分を味わえますよ😅
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