Naoto

オマールの壁のNaotoのレビュー・感想・評価

オマールの壁(2013年製作の映画)
3.9
物事を知らないということのなんと恥ずかしいことだろう。
そして知らない事をこれから勉強していける未来があることのなんと幸福なことだろう。

本作の舞台であるパレスチナを生きる若者たちには、これからゆっくり成長していこうなどという悠長な考えは許されない。

イスラエルに占領され、嘲笑わられるかの様に暴行を受ける主人公オマールは幼馴染達と共に占領からの解放を目指して武装組織に所属し、武器を取るが、そのことに対して非難の目が向けられて然るべきだろうか。

そうは思わない。

ごく当たり前に享受されるべき生活が奪われ、恋人に会いに行くだけでも命懸けの状況で生きれば武器を取らざるを得ない。

そしてもし秘密警察に捕まれば有無を言わさず利用されざるを得ない。

そして秘密警察に利用されたオマールの事を、周囲の人間は疑わざるを得ない。

どれだけ恋人と愛し合っていようと、どれだけ幼馴染達との絆が深かろうと、こうした自由意志の介在しなかった選択によって、その間には高い壁が聳えることになる。

その壁は乗り越えるにはあまりに高く、乗り越えるための努力は石に灸と化してしまう。
そして否応なくパレスチナの地に募ってしまった怨嗟の念によって、オマールが手にするはずであった未来は灰塵に帰す。

パレスチナ問題の根底にある宗教問題。
宗教意識は人間にとってかなり重要なものだと思うが、霊性に頼る宗教意識には知性が介在しない。
知性がなければ人間は獣化する。
そこで神学というものの必要性が出てくると思うのだが、神学を学ぶ未来すらないということのなんというやり切れなさか。

苦しい問題をまた一つ勉強できたことの幸せを噛み締める。
Naoto

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