『 オマールとそり立つ壁 』
パレスチナとイスラエル。街の中にある屋根よりも高い高い『壁』、主人公はSAUKE
ばりにロープでこの壁をつたい、向こう側に行く。この壁はモノとモノを分離するのではなく、完全に内側のモノを隔離するためのもの。
『壁にぶち当たる』と言うが、この壁は主人公と、その恋人との関係を分断するものでもあり、精神的な『壁』のモチーフだった。隔離された土地の人たちは、壁を超えないと前に進めない。
パレスチナ問題の今を切り取るだけではなく、幼馴染3人の友情と裏切り、『この中にスパイがいる!』誰が裏切っているのかサスペンス、そして純粋なラブストーリー、とエンターテイメントとしてとても面白かった。
主人公が拘束され、釈放されようと弁護士に『なんとかならないか?』と頼むと、弁護士は
『ならない。占拠が続く限り』と返す。
いつしか、主人公は高い壁を登れなくなり、絶望に打ちひしがれていると、やおら彼に些細な救いの手が。
心、動かされる突き放した冷たい現実の一方、フィクションの中の優しさが温かい。
切れ味鋭すぎるラストからの無音のエンディングに、劇場で硬直してしまった。
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