熊に襲われ息子を殺され仲間に置き去りにされた男が過酷なサバイバルを生き抜いて復讐へ向かう物語。
アメリカ北西部の極寒地帯を舞台に、森や川、雪原や滝など、大自然の雄大な景色が美しい。ナチュラルさを出すために自然光だけを使った「静」の映像美に圧倒され魅了された。
そして、冒頭のアリカラ族との戦いや熊との死闘、ラストの対決など「動」の描写は立体的な動きで躍動感があり迫力のある映像だった。
長回しで捉えるイニャリトゥの巧みなカメラワークは多くの鑑賞者をうならしただろう。
本作でアカデミー賞主演男優賞を見事受賞したレオナルド・ディカプリオ渾身の演技に脱帽。どの作品を観ても迫真の演技に驚かされ感動する。彼の演技は日々進化しているようだ。
実在した凄腕ハンター、ヒュー・グラスを演じたディカプリオ。
熊に襲われる。急流に飲まれ流木にしがみつく。崖から落ちる。生命力の強さと強運によって九死に一生を何度も得る男。草を食べ、捕まえた魚を食べ、牛の生肉を喰らい、傷の痛みと寒さと飢えに耐えながらタフに生き抜く男をディカプリオは見事に演じた。
そんな過酷なサバイバルの描写は、自然の中にある弱肉強食や食物連鎖をリアルに映し出している。弱肉強食の頂点に立ち、地球を支配している「人間」を殺すのは「人間」だ。
アリカラ族に襲われ殺されるハンター視点で観ると、アリカラ族は「敵」となる。しかし、アリカラ族視点で観ると、住み慣れた土地を守るために戦う先住民である。
入植者たちは先住民を殺し、土地を奪い、食料を絶つためにバイソンの大虐殺を行った。視点を変えれば善と悪が引っくり返る。
バイソンの頭蓋骨が積まれた山に深いテーマを感じた。奪い合い殺し合う人間の野蛮さと愚かさ、そして復讐では何も生まれない虚しさを感じた。