「誰かが生きる事への眼差しと、その反響」
複数の人物と背景が交錯すると、観客の物語への期待は「誰が誰の為にどんな行動を取るか」に寄せられる。
無論、本作はそんな期待に応える作用を幾つも持つが、その作用点までを単なる起伏としては描いていない。
主人公の柏木ユリは、桑原サトルの手紙を読むまでの間はほぼ傍観者で、その眼差しはユリの過去を知った部員たちの眼差しへと反響する。
具体的行動より、互いに歩み寄るまでの眼差しによるキャッチボールが後の作用を生み出し、その距離感が終始尊重される。
自身の環境、立場、喪失に縛られる中、他者の歩みに眼差しを向ける事で初めて一歩を踏み出せるその構図は、未来の自分と目の前の他者の繋がりを解き明かし、その先を指し示す。