PizzaFat

野火のPizzaFatのレビュー・感想・評価

野火(2014年製作の映画)
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本作は、プライベート・ライアンの冒頭20分が120分続くような映画だ。
原作小説や取材を元に、第二次世界大戦下のレイテ島での日本軍の凄惨な日々をグロテスクで激しく、しかしどこか冷静で淡々としたタッチで描いていく。
監督の塚本晋也の作品を見るのは初めてだったが、おそらく彼の十八番である極限状態の人間の心理を表現する手法が、これでもかとつめ込まれており、とにかく一つ一つの場面で体力が削られるような緊張感に襲われる。
特に印象に残ったのは音楽だ。60年台から70年台にかけての日本映画のような音楽に、民族調の音楽のようなものが入り混じった不思議なテイストの音楽は、困窮を極め人肉食まで行われていた異国の地での緊張や、嫌悪感や恐怖感を的確に表現していたと思う。

本作のタッチはほとんどホラー映画のような演出を行っておきながらものの、どこか冷静さをっ感じさせる。会話は殆ど無く、登場人物たちの感情描写も少ない。やっと名前が与えられた兵士が現れても、何かの拍子に一瞬で肉片になってしまう。
感情が描かれないということは、一切の救いが与えられないということでもある。主人公は意図せざる人肉食を行ったものの、かろうじて生き延び、日本にある自宅戻り、妻との生活に戻る描写がラストーンで描かれる。そこで彼は、書斎に籠りいつもそうしているかのように妻に食事を運んでもらう。そして彼が食事を口に運ぼうとするたびに彼はレイテ島でのことを思い出しえずく。
淡々と、戦争に関わった人が心身を消耗しすり減らすのだ。
この態度は、ここ最近の戦争に関する国内の想像力の中では大変稀有なものだと思う。美談や救いを一切許さない完全な反戦の姿勢は政治的な議論を抜きにして芸術家として評価されるべきだと思う。政治的な態度として、塚本晋也は新聞社のインタビューで、世間がきな臭くなっていく中で戦争の痛みを伝えるために自身の持てる技術の全てを注いだと語っていた。
世間がきな臭くなっているという感覚は、私も同感であり、本作のメッセージ性は刺さるものだった。この時代に大変価値ある一本だと思う。
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