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ゴンドラのmuraのレビュー・感想・評価

ゴンドラ(1987年製作の映画)
4.6
伊藤智生というよく知らなかった監督の30年前の、そして唯一の作品が話題を呼んでいて、監督のトークショーもあるってことで見に行った。

で、驚いた。こんなに面白い作品が、そして監督が埋もれていることに。

バブル全盛の頃。小学5年生の少女は派手な母親とふたり暮らし。夜はいつもひとりで、マンションの部屋にこもる。初潮を迎えるが、そのことを母親に告げない。ひとり大人になることへの葛藤を抱える。一方で、飼っていた鳥が死ぬが、死というものを受け入れることもできない。そういった不安定な気持ちが続くなか、ゴンドラに乗ってマンションの窓を清掃する青年に出会う…っていった話。

音叉、メトロノーム…揺れるものが配される。水中を通してであったり、ガラスを通してであったり、映像も揺れる。不安定な心情を煽るかのように。バブルという社会情勢を反映させてもいるのか。

でもこの「揺れる」感覚が、最後は反対に安定をもたらす。波や舟が少女の気持ちを癒していく(僕はそう理解した)。

新宿の高層ビル群(まだ都庁はない)から津軽の寒村へと、ふたりは対照的なふたつの舞台を移動する。あくまでも当時の話ではあるが、同じ日本でありながらこれほどまでに違うのかと驚いた。

で、生理の血が東京のプールに流れるところから始まり、鳥の死体を津軽の海に流すところで終わる…めちゃくちゃ面白い。

映像が美しい。太陽の使い方が素晴らしい。そして津軽はもちろん、東京も美しい。

だからということもあるが、少女は東京にもどっても生きていけるだろうなと思った。生きる勇気を与えてくれる作品。

トークショーが面白かった。主人公の女の子は監督の近くに住んでいて、当時は学校に登校できていなかったと。その子を50日間連れまわしての撮影。その後中学校には通い、都内の超有進学校に入学したと。

映画にはその子の生理や入浴のシーンが出てくる。この描写は今では難しい。そのことを映画館主とふたりで、撮影技術は進歩しているのに写せるもの、描けるものが限られるようになった、これはおかしいと語っていた。

監督は2作目を考えていると。期待したい。で、応援の意味も込めてパンフレットを買った。
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