ケンタロー

ロスト・エモーションのケンタローのレビュー・感想・評価

ロスト・エモーション(2015年製作の映画)
3.5
サイラスとニア。純粋無垢な二人であるが故に、二人の恋は、愛は、美しく切ない…。 未来世界を描くSFでありながら、ガジェットやCGなどに頼った演出を避け、安藤忠雄の建築物やシンガポールの森林・植物といった実存する世界、ニコラス・ホルト、クリステン・スチュワート、二人の役者の息遣いをしっかり感じられる演出と、あくまでも「リアル」に拘った恋愛映画。初恋をした、あの時の「気持ち」想い出しますよ(^^♪

2017年10月28日 愛してやまないブレードランナーの続編 2049 公開から1日が経過。まだ未見だ…。
期待と不安が入り混じり、観に行くことが出来ない…。なんてーのは冗談で、単に劇場に足を運ぶ時間が無いだけなのだ(-_-;)

悶々と過ごすのもしんどいので、合間にいくつかのSF作品を見て、ココロノ隙間を埋めていくことにしたって訳です。
Road to Blade Runner 2049!!!!

1本目に選んだのが、このロスト・エモーション。SFなので、リドリー・スコット製作総指揮ってので推してるけど、監督は「今日、キミに会えたら ≪Like Crazy≫」など恋愛映画で定評のある、ドレイク・ドレマス監督。

作家性の強い監督との相性はどうなんだろうという懸念は杞憂だった。
ちゃんとお互いのテーマとしてることが描かていると感じた。

リドリー・スコット御大は本作で何を伝えたかったのか?
ドレマス監督のテーマとは?

ブレードランナー&エイリアンの世界とも絡めながら(絡めるな…)考察してみたのです。

1.サイラスとニア
2.ロミオとジュリエット
3.アダムとイブ
4.デッカードとレイチェル

それぞれのカップルとリンクさせながら考えていくと面白かったです。

2.ロミオとジュリエット以降からは、ネタバレも含むので未見の方は、ご注意ください。。。

1.サイラスとニア

本作の原題は ≪ Equales ≫ です。 イコール ≒ 同等、等しい

地球規模の大戦後、核(おそらく)により、地球上の96.6%が破壊&汚染された近未来。遺伝子操作によって感情を排することにより、無用の争いや諍いを起こすこともなくなった人類は限られた生存可能域に『共同体(イコールズ)』というコミュニティをつくり、管理社会の中で平等かつ平和に暮らしているという設定。

ブレードランナーに代表される退廃的なディストピアであろう外の世界を感じさせつつも、その世界には一切触れず、清潔かつ整えられた管理社会のみを描きます。
ドレイク・ドレマス監督がリアルさを追求したと言っているように、この『共同体』には、飛びぬけたSF的ガジェットや装置がほとんど出てこないことに驚きます。どれも、現代においても「ある」「ありそう」「もう間近」といったものばかり。

ことさら日本人においては、既視感が強く感じられること間違いなし。
美しい安藤忠雄の建築デザイン、自動改札を通る規律正しい動き、白を基調とした生活空間や服装。システマチックな社会構造がどこか日本社会を連想させるし、日本ロケの効果なのかもしれません。
こんな撮り方もあるのか!と、とても感心しました。金掛けりゃいーってもんじゃないですね。

そんな閉鎖的な社会の中で、病気とみなされる「感情」を発症させ、恋に落ちるサイアスとニア…。

ニコラス・ホルトとクリステン・スチュアートの演技が素晴らしい。
無感情または感情を押し殺しているときの二人の眼。感情が芽生え、溢れ出す時のまなざし、蒼と翡翠の瞳の輝きが違います!

背景や小道具がほとんど無く、無機質なスクリーンの中で、クローズアップされる、瞳、唇、手・指、生々しい息遣いは、この世界において「リアル」を際立たせ、そして、同時に二人が異質なものとして描かれていきます。
 
特にクリステンがビューティフル!
序盤、魚の目&猫背で、いかにもって感じですが、感情を露わにする度、象徴的に纏めていた髪がほどけていく様が、今にも脆く壊れてしまいそうな彼女の心と重なり、見ている側が苦しくなるくらい。。。

ニコラス・ホルトとクリステン・スチュアート、この二人の演技と空間デザインあっての作品と言え、加点1.0って感じです…笑

*** 以下、ネタバレありです。未見の方、ご注意 ***

2.ロミオとジュリエット

本作はシェークスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」をプロットの一つとしているであろう点がストーリー展開から垣間見れます。

ロミオとジュリエット(R&J)では、両家が二人の恋愛に反対をし引き裂こうとしますが、本作においては、恋愛自体が社会悪であり異常行動とされ、制裁対象とされます。 そのような障害のある中、心理学でいうところのロミオとジュリエット効果のまんまに、二人の恋は燃え上がっていきます。

面白いのは、終盤までプロットを同じにしたこと。
R&Jでは、引き離されたジュリエットは駆け落ちするため、協力者の手を借り、死を偽装、家を離れることに成功するも、行き違いで偽死を知らぬロミオは悲しみのあまり、服毒自殺を図るという悲恋の物語。

まんま、この流れですね…笑
服毒自殺≒投薬による感情抑制治療として描かれ、二人にとっての、感情の喪失は即ち死んだも同然ということになる訳です。

しかしながら、サイラスは死にません。
感情を失ったものの、ニアを愛していたという記憶はしっかり遺したままです。本作が面白いのは、感情抑制治療がけっして洗脳のようには描かれていないところです。洗脳による統制ではない為、この作品には、いわゆる悪役や黒幕といった存在がないのです。

しいて言うならば、二人の障害は常に、社会的な差別や偏見であり、感情の発露は社会的死を意味しているということでしょう。
なんだか、現代社会ともリンクする部分があって、面白いです。

愛していたという記憶、駆け落ちしようとしていた記憶から、サイラスは予定通りニアと未開の地「半島」を目指して逃避行の旅に出ます。
ラスト、列車の車中、愛を失い悲しみに暮れるニアに、サイラスは寄り添い、そっと手を重ね微笑みます。

さー、答えは観客に委ねるっていう感じでしょうか?笑

抑制治療薬に心が打ち勝ち、感情を取り戻したとも考えられますが、ちょっとそれは都合が良すぎるし、ファンタジーになってしまいます。
(捻くれててごめんなさい…笑)

私は、記憶がサイラスを行動に移らせたと考えました。
悲しみに暮れるニアは逃避行には不向きでしょ?
記憶から、どう行動すれば、ニアが回復するのかを考え行動に移した…。
いわばプログラムのように判断したうえでの行動。

って考えると妙に機械的で冷たくなってしまうので、感情ではなく、記憶と体験から、他者に共感し、「優しくすること」を覚えたってので落ち着きました。
これが、やがて本当の愛情へと変わる可能性はあるのではないでしょうか。

equales≒共感・同感ととらえる。

言わば、生まれ・出自とか過去が問題ではなく、どう生きるか、どう行動するかが重要であり、それこそが、物事の本質すら変えていくこと繋がるんだという。

はい、そうです。リドリー・スコット御大の晩年のテーマですねコレ。

3.アダムとイブ

本作は創世記のアダムとイブの物語にもなぞらえてるのがわかりますね。
争いのない楽園、共同体(イコールズ)はエデンの園。禁断の果実は「感情」を表します。 知恵を得たアダムとイブは創造主である神の怒りを買い、制裁を受けることになります。 イブは産みの苦しみ=受胎を与えられますが、本作ではニアの妊娠がそれにあたります。

結果、恋に堕ちた二人はエデンの園を追放され、原罪を背負いながら生きていくことになるが、やがてその子孫からイエス・キリストが生まれ救済されるという物語。

サイラスとニア、感情のあるニアから産まれる、遺伝子操作をされていない子供は、どのような未来を生きていくのでしょう。半島に住む感情を有する感染者や共同体の住人たちに、影響を与える存在になるのでしょうか? その先の物語を想像すると楽しいです(^^♪

ほら、レプリカント、人間、アンドロイド、エイリアン、創造主と創造物の構図がここでも軸になってきました…笑

4.デッカードとレイチェル

サイアスとニアが未開の「半島」へ逃亡しようという展開になって、
ハイ、キタ――(゚∀゚)――!!ってなったよ笑 

遺伝子操作で造られた人間(バイオロイドって言っていいのかなー)は、やはりレプリカントに通ずるものを感じるし、感情を排した純粋な存在として、同様にレプリカントも純粋に「生」を渇望しているという点でとても重なりました。

ブレードランナーのレプリカント、ロイやレイチェルの純粋さ故の脆さ、美しさが、サイアスやニアにもあります。

って、はなからブレードランナー意識して観てるから、そうなるだけかもしれないけど(;'∀')

この作品において、ドレイク・ドレマス監督とリドリー・スコット御大は「愛があるからこそ生きられる」ということを強く説いているのだと思います。

最後に、サイアスが語ったセリフで気になる部分があったので抜粋。。

『幼い頃から刷り込まれてきた。僕たちの使命は宇宙を探索し、答えを得ることだと。人類の存在意義と誕生した理由を…宇宙に見つける。。。』

この話!?
まるっきり、エイリアン&プロメテウスじゃねーかッ!
あのジジイ、軽くブッ込みすぎなんだよッ!!

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リドリーのアンドロイド説もある(ない)、息子ルーク・スコット監督の長編デビュー作を追撃する!