茶一郎

キャロルの茶一郎のレビュー・感想・評価

キャロル(2015年製作の映画)
4.1
『自分を偽ってまで存在する意味がない』

1950年代、舞台はコネチカットからニューヨークへ。主観と客観との間を不安定に揺れ動く、自分に嘘をついて生きること苦しさ。
街の排水溝のカットから始まる今作は、2人の女性の苦悩、見る人を見る映画。登場人物の主観と神の視点を上手く使い分け、時に不自然に使う。映画におけるストーリーテリングはこの視点の変化を使うことだと再認識できる作品。

『自分を偽ってまで生きる意味』はトッド・ヘインズ監督が繰り返し描くテーマで、時にそれはセクシャルマイノリティであり、時に歌で世界を変えようとする人、幸福を演じなければならない家族だったりする。
見てはいけないものを見たくなる人間の心理と直結する行為:覗き見は、しばしば映像芸術である映画ととても相性が良いことを思わされる。今作はカメラが車のガラスやお店のウィンドウを隔て、ルーニー・マーラ演じるテレーズが家に入る様子を隙間から見ているように映すカットが印象に残る。また、登場人物の視点も、テレーズが没頭するカメラも、まるで覗き見のよう。

物語も終盤に。キャロルと夫の親権争い、ある決意の後、やっと目を合わすことのできた主観に心動かされる。
茶一郎

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