もるがな

ドクター・ストレンジのもるがなのレビュー・感想・評価

ドクター・ストレンジ(2016年製作の映画)
3.2
ドラッギーなアトラクションムービー。話は良く言えばプロローグ、悪く言えば盛り上がりに欠ける内容で、映像ぐらいしか見所がない。特に心に残る台詞、シーンが皆無なのは致命的。

ドクター・ストレンジは立ち姿が絵になるという、ヒーローものの最低ラインは保っているものの、キャラの魅力が今作で存分に発揮されたかと言われれば疑問が残る。師匠のエンシェント・ワンは女性にすることで魔法使いの長老キャラというイメージから脱却させたのは上手いと思ったが、原作のチベット人からの変更は中国市場への政治的な配慮やホワイトウォッシュを想起させて微妙な気分になってしまう。演じたティルダ・スウィントンは神秘性があって素晴らしいだけに、この辺の問題は非常に残念だった。そんな中で唯一の癒しはストレンジのマントで、マント界の中で『スポーン』とタメ張れるレベルの有能さ。今作の裏MVPである。

空間自体を捻じ曲げる魔術戦のインパクトは大きく、IMAXや爆音上映、4Dなど視聴環境さえ整えれば驚異の映像体験ができるだろう。しかしアーティスティックで派手ではあるものの、この手の表現の嚆矢となった『マトリックス』や『インセプション』に比べて外連味が足りないのも事実で、全体的に大味である。都市のドミノ倒しやパズル組み換えも初見のインパクトは凄いものの、こう何度も繰り返されると途中で飽きてしまう。

あと時間や次元や空間を超越した魔法をバンバン繰り出すわりには、基本的な戦闘シーンがチェイスタグと肉弾戦なのは苦笑してしまった。完全にMPの無駄遣いである。ただ、こういった普通の人間らしい動きと魔術による大規模な空間操作を合わせることで、周囲の超常現象が際立つという側面もあるので一概には否定できない。

とはいえワイドスクリーン・バロックめいた、SF要素を取り入れることで自由度が高くなった観念的な話は魅力で、既存のマーベル映画とは違った視点を感じさせる。今作だけではポテンシャルを完全に発揮したとは言い難く、次作でその真骨頂が明らかになるだろう。
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