結湖

追憶と、踊りながらの結湖のレビュー・感想・評価

追憶と、踊りながら(2014年製作の映画)
3.4
母親にとって息子ってのはとても特別だと聞くのですが、私は独身で子供もおりませんので、イマイチその感覚がわからない。
で、知人(男の子も女の子も生んでいるお母さん)に聞いてみると、「子供はみんなかわいいし、大事なんだけど、息子は特別にかわいく思ってしまう。差別するつもりも、区別するつもりもないけど、なんでだか息子はかわいいのよね」って言ってた。なるほど、親にならないとわからない感情もあるんだなぁ。
ロンドンの介護施設に入っているカンボジア系中国人ジュン(チェン・ペイペイ)は息子・カイ(アンドリュー・レオン)を事故で亡くし、言葉が通じないこともあって、孤独に暮らしている。そこに息子の親友であるリチャード(ベン・ウィショー)が通訳を連れて現れるのだが、息子とリチャードが親しすぎるのをジュンは快く思っていなかったため、好意を素直に受け取ることができない。母親が二人を親しすぎると感じるのも当然で、母親には言ってなかったがカイとリチャードは恋人同士だったのだ。
恋人の唯一の肉親である母親の孤独を案じて交流を図るけど、母親の方は彼がどうして自分の世話を焼くのかがわからないし、自分より彼を選んだように感じ、嫉妬しているのです。
この映画では言葉が通じないことも、自分の意志が伝わらないことも、母親はあきらめてしまっています。先日見た『マダム・イン・ニューヨーク』とは真逆です。
しかし、本当のことを伝えることが大事だとは限らない。ラストで母親がリチャードに北京語で話したことは、同性愛に対する理解とか偏見からきているものではなく、『親』として生きてきた者が『子供』に対して思う普遍的な想いだと思います。
『親』になって『子供』を育ててみなければ、その気持ちはわからないだろうし、その複雑な思いを知りたいと思うなら、同じ立場になってみないとわからない。そして、それは苦労もあるがかけがえのないものだと。
それはいうなれば、息子が死んだという過去にとらわれないで、未来を望むようにという、思いやりとも取れます。
あの場面で、母親はリチャードがゲイで息子も彼を愛していたということに気が付いたわけではなく、リチャードがどれほど息子を愛していたのか(親友としてとか、ゲイだからってことは関係なく)の想いに、自分もリチャードと同じように深く息子を愛していたことに応えたのではないかと思います。
それにしても、ウィショーは細いなぁ。繊細な役柄ととてもあってました。
2016/03/21:DVD
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