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おみおくりの作法のエディのレビュー・感想・評価

おみおくりの作法(2013年製作の映画)
4.0
孤独死をした人の遺品整理や葬儀埋葬までを行う公務員の生き様を描いたヒューマンドラマ。寂しく死んでいった人に接する暗い公務員が主人公なのだが、「おくりびと」のようなほわっとしたコミカルさがあって、暗くならないで観ることができる。「死はあっけなく寂しい」し、生きている間に報われることはないし、死んでも報われることはないけど、良い事はあるかもしれないという、日本人には理解し易い死生観や輪廻思想が強く感じられる。じわっと感動した。

主人公ジョン・メイは大学卒業後20数年間、ロンドン郊外で地域担当係を続けている。彼の仕事は、孤独死した人の身辺整理と葬儀を行うことだが、几帳面で誠実なジョンは、事務的にこなすのではなく、遺品を手がかりに遺族を探したり、亡くなった人の嗜好や宗教を探って一人一人に相応しい葬儀を行っているのだ。こんな丁寧過ぎる仕事ぶりだが、他の同僚より仕事が遅いので、地区統合の合理化の際に解雇されてしまった。そんな中で彼は手がけていた最後の葬儀執行を行うことになる。。。

ネクラなおっさんのジャケットから変な映画なのだろうと先入観を持っていたが、最初の10分で良い意味で裏切られた。死を扱っているが、グロい場面は出てこないし、暗いわけでもない。ひょうひょうとしたタッチで映画が進むのだが、最初の10分で青信号でも左右を見渡してから渡るシーンや、遺品を丁寧にチェックするシーンが出てきて、彼の人柄がわかってくる。
何をしているのだろうと思っていたら、限られた遺品から人柄を推定して、その人その人のための弔事を書き上げているのが判ったときは涙が出そうになった。

実際こんなことをする人はいないだろうし、この映画はこれを強調したいのでもないだろう。映画が描きたかったのは、仕事で評価されるには、逸れ相応の対象者が必要なのと、葬儀は死者のためではなく、生きている人のためだということだと思う。
ジョンの丁寧な仕事は孤独死して他に参列者のいない葬儀のために行う以上、生きている人誰からも評価されないので、クビになるのは仕方が無いだろう。結局、葬儀は生きている人間のある意味自己満足で行うというのが現実だ。

しかし、ジョンメイの最後まで丁寧な仕事が奇跡を起こした。最後の仕事となる葬儀を出来るだけ多くの参列者に出席してもらおうと奮戦するのは、彼の仕事に対するプライドと葬儀は死者のためではないという現実に対するささやかな抵抗だろう。

必死の捜索で、亡くなった老人の娘を探し、娘と仲良くなって、もしかしたら、これが彼の新しいスタートになるのかなとほのかな期待を抱いた末のラストは言い様がないくらいに胸を打つ。

ずっと一人で生きてきたジョンが知り合ったばかりの彼女のために犬の絵柄のついたマグカップを二つ買っている、きっと彼女を家に招いてデートをしようと思っているのだ。嬉しそうに他のモノを買おうと店を出る表情の清清しいこと。

人生はあっけない。そして、葬儀は生きているもののためだと、ラストも痛切に思うが、最後の最後で奇跡が起こる。

ラストはキリスト教的な死生観ではないと思う。しかし、葬儀は行きているモノの自己満足ではなく、確かに死者も喜んでいて、誰も観ていなくても、誰かが評価してくれているという日本人的には理解し易い結末だ。

ハッピーエンドかどうかはネタバレになるので書けないけど、死生観や生き様を考えるきっかけになると思う。激しい感情の起伏は無いけど、しみじみと良かったなあと思える映画だった。
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