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おみおくりの作法のumisodachiのレビュー・感想・評価

おみおくりの作法(2013年製作の映画)
3.7
過去のレビューをこちらにもシリーズ。

ものすごく淡々としている映画なのだが、ラストのインパクトが凄すぎて、しばらく呆然としてしまった。

主人公のジョンは律儀で几帳面で愛情深い人物。ルールを守り、毎日完璧なルーティンの中で暮らしている。いわゆる「無縁仏」をつくらないように、遺品から故人の親類や知人を探し出そうと努力するのが彼の信念。そして、結局誰にも見送られることがなかった故人についてはその写真を持ち帰り、ときおり眺めて思いを馳せてあげるのだ。しかし、そんな彼の非効率的な働き方は組織にとっては無駄と見なされてしまい、解雇を言い渡されてしまう。こうして、最後に担当した故人の身内探しにジョンは全力を注ぐことになる。台詞も多くなく、ジョンの表情もあまり変わらない。でも、小さな手がかりがみつかったり、故人の素顔が垣間見える話が聞けたりするとジョンの瞳は嬉しそうな光を湛える。そして最後の仕事を終えた後、今後のジョンの生活に少しだけ華やかな兆しが見え、彼は今までになく明るい笑みを浮かべて少々の酒を飲み、買い物をし、意気揚々と街を歩く。

そして、ラスト。この作品はラスト数分があってこそ、その真価が発揮される。最後の30秒はB級映画っぽくも見えるベタベタな展開ではあるのだが、この映画に限って言えば正解だったのではないだろうか。私はそのベタな30秒に、まんまと泣かされてしまった。

また、ジョンが事あるごとに色々なものを食べるシーンが盛り込まれているのが印象的。食は生きる証なんだな。故人が関わっていた人たちの職業もパイ工場(食べ物)、フィッシュアンドチップス屋(食べ物)、ドッグシェルター(生き物)と意図的に生を感じさせる場所だし、刑務所でのエピソードも歯の強さを感じさせるというものだった。こういった部分にもこの映画の丁寧なつくりが見て取れる。なかなかおすすめ。
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