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セッションのろのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
5.0

どしゃぶりの日曜日。
5時起きで身支度を整え、8時半からJKシモンズの怒号を浴びた。
ギャガ・アカデミー賞受賞作品特集上映にて、6年ぶりの「セッション」だった。

リズムにのせて夜のニューヨークを切り取るスタイリッシュなオープニング。そんなクールな映像からは想像できないほど泥臭さがみちみちに詰まっている。

楽譜をなくした主奏者の代わりに舞台に立つと志願するアンドリュー。そのハングリー精神を買い、鬼のような猛特訓を強いる教師フレッチャー。
生徒に期待し、どれほど憎まれても自分のスタイルを貫き通すフレッチャーと文字通り血の滲む努力を、血と汗を流した分だけ評価してほしいアンドリュー。同じように努力家で、同じように周囲から疎まれる。そんな二人のぶつかり合いに体が震えるほど泣いた。ほとんど全編泣き通しだった。それだけアンドリューもフレッチャーも私の中にいるということなのだと思う。

「それでもおまえ店員か?何も知らんくせによう働けるな。もっと勉強せなあかんで」と通りすがりの客にこけにされ、悔しくてたまらなかった。
その場でFワードを連発しそうになりながら、直接ぶつけられなかった悔しさをバネになにくそ精神でマニュアルを読み込んだ。本当はそこまで必死になる必要もなかったし、そんなことを続けたところでいつか息切れするだけかもしれない。ただ悔しさをバネに得たものがあるのもまた事実で、それがなければこの映画は私にとって味気ないものになっていただろうとも思うのだ。

アンドリューのお父さんや叔父さんは「音楽なんて聞く人の感性によるだろう。何を基準にすごいというんだ。スポーツの方がよっぽど立派じゃないか」とバカにする。だけどスポーツだろうが音楽だろうが、”好き”を極めるということは生半可な気持ちで出来るもんじゃない。
フレッチャーもアンドリューも音楽に膨大な時間とエネルギーを費やし、そんな自分を誇りに思っている。だからこそ互いを認め合い、リスペクトする一方で反発しけなしあう。つまり似た者同士なのだ、磁石のプラスとプラスのように。

「俺はいつかバディ・リッチのような偉大な音楽家になる。だから君に僕の将来を邪魔してほしくないんだ」と彼女に別れを切り出す傲慢なアンドリューに笑い、舞台で教え子に恥をかかせてしっぺ返しをする大人げない師匠に笑う。
けれど結局、アンドリューは最後までフレッチャーに食らいつくし、そんな教え子をフレッチャーは見捨てきれない。

ほとばしる汗がシンバルの上で跳ね、スネアドラムに血が滴り落ちる。
今この瞬間を全力で生きる、それこそ音楽をする理由なのだと思う。


( ..)φ ~本日のハイライト~

日曜朝8時。オープン前の劇場には大勢が列をなし、その賑わいが嬉しい。
クリアファイルを忘れるという痛恨のミス。カラフルな「バービー」のフライヤー2種を持ち帰れず地団太を踏む。
ウェスアンダーソンの新作の予告編を初めて鑑賞。グラサン姿でもすぐに分かるスカヨハ。前売りチケットを買って帰ろうか本気で迷う。

洗面台いっぱいに氷と水をため、血だらけの手を冷やしながらドラムを叩き続ける。画面いっぱいに広がる鮮血。これこそ私が映画を観る理由だ。



( 2017年3月31日 BS鑑賞レビュー )

「音楽をする理由がある」

すごい。圧倒的な迫力、破壊力。
ドラムのテンポが速くなるにつれて、画面に釘付けになった。
緊張して汗が出て、力強く手を握りしめた。

音楽大学に入学したニーマン。
偉大な音楽家(ドラマー)になるという野望を持つ彼は、鬼教師フレッチャーのバンドにスカウトされる。そこでニーマンを待っていたのは厳しすぎるレッスンだった。

魂を削りながら、ぶつけ合う

罵声を浴びながら、ドラムを叩き続けるニーマン。
他のドラマーを寄せ付けないために、
フレッチャーを見返すために、
ニーマンは血と汗にまみれながら演奏する。
その姿に、息をするのも忘れるぐらい、見とれてしまう。

フレッチャーに認められたい。
偉大なドラマーになりたい。
ニーマンの中で野望が渦巻き、やがて驕りに変わる。
家族や恋人のことも眼中にないぐらいドラムに没頭する。

そんなニーマンに現実は容赦しない。
この短い106分の中で、ニーマンは幾度となく挫折を経験する。

ニーマンのすごいところは、何度蹴落とされても這い上がるところ。交通事故に遭っても、大学を退学させられても、大舞台の上で恥をかかされても、ただでは起きない。食らいついていく。「七転び八起き」という言葉では生ぬるいぐらいに猛然と立ち上がるのだ。
私だったら泣き寝入りするところを、この人はなんて強いのだろう...と心を打たれた。

ラストのステージ。
まさに「生きている」とは、こういうことだと思う。
シンバルが振動するように、私の心も震えた。

悲しいことや悔しいことなんて山ほどある。涙が溢れて止まらなくて泣き明かす夜も、腫れあがった目を見て失笑する朝も数えきれない。しかし、その怒りや やるせなさを原動力に、どんなこともきっと乗り越えていける。

ちっぽけな悩みや このぬるま湯のように平和な毎日が、バカバカしく思えるほど痛快で、爽快な気分にさせてくれる物語でした。
ろ