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セッションのmingoのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
4.2
いつもの有楽町よみうりホールにて試写会。
劇場公開作品でここまで満足したエンタメ娯楽映画はいつ以来だろうか、ぼくのオールタイムベストに入りうる作品だった。間違いなく今年のベスト。そこまで良かった。劇場で観なくては!そしてラストのカタルシスは1度しか体験できないし、ここまで楽しませてくれたセッションに感謝感激雨嵐!魂と魂のぶつかり合い。人間のエゴが出なければ夢は叶わないし、まさに人生を賭けた渾身の一本。

原題は「whiplash」、映画の中で弾くジャズの練習曲として出てくる名曲に没入とか心身の危険の意を掛けた両方の意味を示したタイトルらしい。しかし音楽を通して心を通わせる心の「セッション」(放題)も間違いなく良いタイトルだ。今年度ぶっちぎり。

監督はデミアンチェゼル。自身の体験を脚本にし、サンダンスグランプリに観客賞というデビューっぷり。映画としての地力は次回作以降に試されるのだが、ここまで凄い映画を作ってしまって大丈夫なのだろうか。当時若干28歳という若さ溢れる作品なことはもちろんなのだが、自身の体験に基づいたある水準で葛藤した人間の人間味のある作品に仕上がっていることに胸を打たれた。

本作の出来の良さはテンポの良さと、脚本演出構成カット割すべてに隙がなく、なおかつ登場人物が音楽学院の教師と生徒ほぼ2人に絞り(それぞれの心情さえ排除したような)、観るものを圧倒的におきざろうとする怒涛の推進力である。

なんだこいつは〜w観た者のほとんどの人がキューブリックのハートマン軍曹を思い浮かべるであろうスパルタキチガイJKシモンズが演じるフレッチャー教授。
入学したばっかで夢膨らませる主人公アンドリュー。最初はルックスも良くないしつまんねえやつが主人公に選ばれたと思ったがとんでもない、マイルズテラーにしかできなかったであろう苦悩と葛藤を描いた場面、そしてラストに爆発するカタルシス。
観たことない絵に、予想だにしない展開。半端ない推進力と、観るものを惹きつける演技である。先日観た「博士と彼女のセオリー」のエディレッドメインなんて眼じゃない、年老いたシモンズが指揮する一振り一振りの力強きことよ。些細な動作に、汚い単語が羅列された罵声(ギャグセン高すぎw)、ひたすらに一点を見つける眼に、もう身体が精神が捉われる。博士のセオリー?勝手に解いてくれである。

多くのひとの共感をよびヒットすることは間違いないが、クリエイターにこそ観て欲しい映画でもある。指導者がどんなにスパルタであれ、生徒の将来を考えるのももちろんだが、作りびとであれば「良い」ものを作りたいという純粋な気持ちが根源にあるからだ。
そこにあるのは自分に対しても相手に対しても「そんなんじゃだめだ」ていう向上心とただただ未知への好奇心が凝縮されている。天才も最初は凡人だったし、すべてを投げ出して得られるのかそうでないのか、それは本人にも誰にもわからないが、取り憑かれてしまう心で感じる芸術や音楽に対して、どんなに罵声を浴びせられても手が血だらけになっても、やらざるをえない宿命。久しぶりに心の奥底の作りたい欲が燻られた。ラストのセッションはまさにタイトル通り、「良い」ものを目指した2人の感性がマッチした最高の演奏が詰まりに詰まっている。刮目!!!

もちろん恋愛に対しても監督の充分なアプローチがされている。主人公の彼女はどこにでもいる笑顔が素敵な可愛い女の子なのだが、音楽を極めたいからと彼女をフり音楽を選ぶが、挫折し演奏会に来てくれと伝えまた寄りを戻そうとする。このシーンがラストの爆発への伏線となる。(ネタバレになるが)演奏会で場内を見渡すが、彼女はそこにはいない。一瞬場内が映るだけで、主人公のガッカリした表情の抜きもない。素晴らしい演出だ。切なくなる余裕さえ与えない。そんなに甘い世界ではないのだ。

また、シモンズ演じるフレッチャー教授がキチガイすぎて鑑賞したゆとり世代の脆い心はズタズタだろうが、ぼくはシモンズが映画内で1番まともな人間のように感じた。「フレッチャーは口が悪いだけ」と生徒が不意に漏らしたようにスパルタではあるが、BARで弱音を吐いていたし、ラストの豹変も含め、喜怒哀楽しっかりした1番人間らしい人間である。彼を、主人公を守る人間たち(教育委員会)が批判することに観るものは疑問さえ抱かないだろうが、ここで善悪の逆転が起きていると感じた。

以上つらつらと熱い気持ちだけで語ってきたが、本作の面白さはシモンズが主人公に対して行った事柄は本心なのかそうでないのかわからないとこにある。まさに人間そのものを描いた人物像である。人の心の中を読めたらなんて小さい頃よく思ったものだが、読めないから面白いし辛いし楽しいのである。

ぼく個人はジャズの知識もないし、音楽に対しての見解はゼロに近いが、それでも「良い」ものを誰かと共感できたときの心地よさはセックスなんかより勝るし(尺度が違うかw)、人がモノを作る理由が詰まった映画であった。

名画にさえ勝る2015年の傑作。
全ての作る人に、そうでない人に劇場に足を運んで欲しい一本である。

評論家の町山智浩が元気ないときとかに観て劇場から「オラーッ」て出てきてほしいですね笑 て言っていたように、ヤクザ映画並みに形振り構わない素晴らしい出来である。
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