河

僕は黒人の河のレビュー・感想・評価

僕は黒人(1973年製作の映画)
4.6
アフリカの中心地に金を稼ぐっていう夢を持って若者が流入してくるけど、スキルがないため日雇いの肉体労働をするしかない。アフリカの若者は伝統と近代社会に引き裂かれている、例えばイスラム教信仰と映画などのアイドル(偶像)などっていう設定の元、ジャンルーシュがその若者達に自分達を主役として自分達が演じた映画を作ろうと提案する。
主人公達は映画の登場人物を名乗り、主人公のように自分達の日々の生活にアテレコしたりナレーションをつけていく。原題が私は黒人、私はノアールのダブルミーニングととれるように、映画的な展開を求めつつも日雇いの行き場のない生活を送る。
休暇である土日にその映画的な生活が実現することを予感するも、結局何も変わらず終わりまた同じ生活が繰り返される。
ただ、また最後には戦争の生存者として自分で自分の新しい物語を作り出し、新しく映画的な名前を自分につける。
映画的な生活を送りたいっていう希望と実際の何も叶わないし叶うこともないだろう生活の間で分裂し、変化を予感するけどその夢が弾けて、けどまた新しく空想的な生活を夢見ることによって日常を送っていく話なんだと思った。青春ものとしてこれ以上ない話。

アテレコもナレーションも全く秩序がなく、映像と音声があからさまに分離していて、途中で誰が誰の声を出してるのかもわからなくなったりする。ただそれがこの現実から理想へと分裂していくような話と噛み合っていて、かつ映像体験としての破壊力がものすごくてめちゃくちゃに良い。

まんまゴダールの勝手にしやがれだと思ったら直接の影響元だったらしい。勝手にしやがれの主人公は映画的な生活への希求と実際の生活の行き場のなさの間で分裂した結果行き当たりばったりになる。最後はその間をゆらゆら揺れてどっちにも行けずに死ぬって話だったんだと気づいた。
きっとどちらも即興的に撮っていくことでそれぞれフランス、アフリカの若者の深層心理みたいなものを捉えようとしていて、だからこそ地理的な違いを越えた普遍的なものとして共通点が見えるんだと思った。ドキュメンタリーとは何なのかがずっと腑に落ちていなかったけど、その普遍的で印象的で深層心理的な何かを、場所や人を通して映像として即興的に捉えようとのがドキュメンタリーってことなんだろうなという理解に至った。
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