LalaーMukuーMerry

ブリッジ・オブ・スパイのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

ブリッジ・オブ・スパイ(2015年製作の映画)
4.2
米ソ冷戦時代の1960年、U-2撃墜事件というのがあった。高高度でソ連領内を秘密裏に偵察飛行していたアメリカの偵察機U-2が、ソ連の地対空ミサイルに撃墜され、パイロットが捕虜になり、偵察の事実がばれてしまった事件。

この作品は、捕虜になったパイロットと、U-2撃墜事件よりも前にアメリカで逮捕されていたソ連のスパイとの、スパイ交換にまつわる実話ベースの話。逮捕されたスパイが負うことになる冷酷な運命に気づかされると同時に、スピルバーグ監督の人権意識の高い視点にちょっと唸ってしまう秀作。

敵国ソ連のスパイ(アベル大佐)に対する裁判で、国選弁護人になってしまったドノバン弁護士(トム・ハンクス)は、当時のアメリカの風潮(=当然死刑)に流されず、CIAの横やりにも守秘義務を貫いて、憲法に従って真摯に向き合って弁護する。

判事に直談判して、アメリカのスパイがソ連に捕まった時に切り札として生かしておいたほうが良いという考えを伝えて、死刑を免れさせることに成功するのだが、それがU-2撃墜事件で本当になってしまった。

政府高官やCIAの役人ではなく、なぜか一民間人である弁護士の彼が西側を代表して、ソ連と東ドイツに拘束された二人のスパイとの1対2の捕虜交換の交渉をすべて行い、成功させる。

緊迫感あふれる重厚な音と映像で格調高く描かれていて、ベルリンの壁の建設中の様子とか、ベルリンの橋の上でのスパイ交換の様子など、なかなか良かったです。本当はものすごく地味な出来事だったはずですけど…。

電車内で新聞を見て、弁護士本人の存在に気づいた時の乗客のまなざしが、スパイ裁判の時には冷たい軽蔑の目だったのに、スパイ交換に成功した後は尊敬のまなざしに変わった所が印象的だった。

特定秘密法が成立して、これからは日本でもスパイ対策が整備されてきて、外国スパイの逮捕や、日本のスパイが外国で逮捕されるなんてことが起きてくることでしょう(中国ではすでに日本人がスパイ容疑で捕まっている)。そのための現実的な備えが必要だし、スパイも人間、冷静に判断するヒントを教えてくれる作品だったと思います。アメリカという国の奥深さをまたしても思い知った作品。