Tラモーン

海にかかる霧のTラモーンのレビュー・感想・評価

海にかかる霧(2014年製作の映画)
4.0
やっぱり韓国映画は詰め込みすぎくらいが面白い。


1998年。不況に苦しむ韓国の漁村、麗水。漁船チョンジン号のカン船長(キム・ユンソク)は資金繰りのため、中国から朝鮮族の密航者を運ぶ仕事を引き受ける。夜の海上で多数の密航者たちを乗り移らせたチョンジン号は麗水を目指すが、途中海上警察に出会してしまう。


ポン・ジュノが製作と脚本で参加しているだけのことはある流石の面白さ。彼の作品らしい人間のエゴと、その根底にある格差と貧困が見事に詰め込まれたあっという間の110分。

冒頭、チョンジン号の乗組員たちが貧乏ながらも仲間とオンボロ漁船に愛情を持ち仕事をしている日常を美しく描いているのがかなりのミソ。寒そうな甲板で白熱電球で暖をとる姿が印象的。

昔は名のある船長だったカンを演じるキム・ユンソクは流石。乗組員たちを食わせるのがやっとで、奥さんには愛想を尽かされ、それでも海で生きるしかないというプライドは捨てられず船と部下のため密航者の海運に手を染める。

"自分で上手くやってくださいよ"

まさにその通り。目的地まで密航者を無事運ぶことだけを指示され、海の上では自分でなんとかするしかなかった。

突然の慣れない密航仕事に戸惑う船員たち。密航者に同情する者、女性の密航者に欲情する者と優しくする者。
韓国へ兄を探しに行くと乗り込んできた若い女性密航者のホンメ(ハン・イェリ)が船員たちの運命を狂わせていく。

中盤まではなんとなくのんびりしていた展開が中盤で大きく動き出す。ここから雰囲気がガラッと変わるのでネタバレは無しで。

不測の事態に一転する雰囲気と、船を覆うようにかかる霧。
極限の状況の中で追い込まれていく乗組員たちの関係性がエゴにより崩壊する。

"海ではおれが大統領で父親だ"
"俺たちは運命共同体だ。まさに同じ船に乗ってる"
"俺たちがやったことを一生腹に飲み込んだまま生きるなんて無理だ"

プライドと欲望と後悔、そして愛情。
霧に覆われた船の上でそれぞれの感情が爆発し、ぶつかり合い、どんどん悪転していく状況。

船内での怒涛の展開からの砂浜のシーン、そしてあのラストシーンはなんとも言えないやるせ無さが残る。


名脇役としてよく登場するキム・サンホが演じた甲板長がすごくよかった。カン船長に忠実でありながら、乗組員たちの行動に頭を抱える人間味はこの事件の葛藤そのものだったかもしれない。

相変わらずポン・ジュノは追い込まれた人間の狂気を不謹慎なほど絶妙に軽いタッチで表現するのが上手いな。「なるほど、魚のエサか…」ってなるもんな。

どこまで脚色されてるかわからないけど、これが実話ベースだなんて。やっぱり人間が1番怖い。
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