えむえすぷらす

海にかかる霧のえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

海にかかる霧(2014年製作の映画)
5.0
「母なる証明」「スノー・ピアサー」のポン・ジュノ監督作品。やっと見ました。
何処かしら不穏な空気が漂う中で、船と乗組員を第一に思う船長が悪意があった訳ではないのに起きた出来事をきっかけに自ら道を踏み外し堕ちて行く。
密航漁船という設定、「哀しき獣」を思い出した。ただ、あの作品と違って心理的な描写が強い作品です。

奴隷船も密航船も大した違いはない。揉め事を起こす密航者がいれば海に落として見せしめにする。船長は乗客と乗組員に対して責務を負っている代わりに強大な権力を持つ。そして本作の船長は意図しなかったとは言え、その責務を果たせなかった事から船乗りにあるまじき悪行をその後積み重ねる事になる。

「母なる証明」のような物語の推進力になる謎はないのですが、その代わりに漁船がどのような結末を迎えるのかという物語の行方がこの船を動かしている。
「母なる証明」は狭い人間関係の中でミステリーを描き、「スノー・ピアサー」では一つの列車に世界を凝縮させて壊して見せたポン・ジュノ監督ですが、本作の小さな漁船という設定は語り口としては一番滑らかだったように思える。ただし登場人物は船長以下機関長、甲板長までは良かったのに若手3人のうち2人が似た感じになってしまったのは惜しい。キャラクターを変えるかあまり描かないか選択肢はあったと思いますし。

作家性がもろに出た作品で見る人を選びそうですがポン・ジュノ監督らしい人の心理描写は見もの。見て損はしない映画だと思います。