ひでやん

草原の実験のひでやんのレビュー・感想・評価

草原の実験(2014年製作の映画)
3.8
思いがけないラストに絶句。

冒頭のシーンが羨ましい。一度でいいから羊の枕で昼寝したい。見渡す限り続く草原にポツンと一軒家。そこで父と暮らす少女の美しさに心奪われる。心を射抜くような真っ直ぐな瞳が瞼の裏に焼き付いた。

風に揺れる白いカーテン、風になびく少女の髪、舞い上がる砂埃、大地に降り注ぐ雨、乱反射する水面のきらめき、濡れた岩の乾き、外壁に投影した少女の一瞬、夕日のように沈む坊主頭…。

台詞を一切排除し、淡々と映し出す穏やかな日常。光の反射がとにかく綺麗で、少女の視線がいちいち美しい。その瞳に映るのは広大な草原だが、広い大地に反して彼女の世界は狭い。毎朝トラックで運転の練習をする分岐点までが彼女の世界。寝室に貼られた世界地図は、まだ見ぬ世界に思いを馳せているのだろう。世界は広くて美しい。そして残酷でもある。その不穏な空気がじわじわと少女の周りに漂い、嫌な予感が胸に広がった。

荷台に乗る青年をミラー越しで見る少女の微笑み。甘酸っぱい恋の行方に悲劇が待ち受けているように感じたが、「まさか」の結末…。台詞が一切ない事で、視線や繊細な表情をじっくりと見つめる事ができた。なので、すべての台詞を排除した監督の実験は見事だが、すべてを奪い去る人類の実験は愚の骨頂である。はあ…なんてこった。
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