むさじー

友情のむさじーのレビュー・感想・評価

友情(1974年製作の映画)
4.0
<人生半ばで戸惑う男たちの哀愁>

工場経営者のヴァンサン、作家のポール、開業医のフランソワは昔からの友人で、中年になった今、それぞれに悩みを抱えている。ヴァンサンは自身の浮気から妻と別居中で、更に工場は倒産の危機にあり、ポールはスランプに陥って筆が進まず、フランソワは妻の浮気に沈んでいる。
不惑の歳はとうに過ぎて、家族もできて中年の自覚を持ちながらも、若い頃のように集い友情を保ち続けている三人の男たち。主人公ヴァンサンの若い恋人や妻との関係、経営者として金策に走り回る姿を中心に、特にドラマチックな展開もない平凡な日常を淡々と描いていく。そこには中年男の苦悩や哀愁がにじんでいるのだが、さり気ない互いの気遣いが温かく伝わってくる。
特に人生半ばの戸惑いと生き辛さ、奥に潜む虚無感をより強く漂わせるのが裕福な開業医のフランソワだ。ポールから「君子豹変す。昔は困窮者のための無料診療を志しながら、今は金持ち優先医療に」と揶揄されて激昂しながらも「あまりにグロテスクな自分」と自身の変化を認めざるを得ない心の内を吐露している。理想だけで生きられた青年期を過ぎ、時代に適応しながら生きることを求められ自ら選んだ半生だが、納得しきれない思いを抱えていた。
ラスト近く、医師のフランソワが、病気で禁煙中のヴァンサンに煙草を勧めるシーンがある。妻に去られた男を慰める言葉はなく、相憐れむ二人の男が侘しさをかみしめる姿には胸に迫るものがあった。
人生の陰りが余韻となって響き、熟成した赤ワインの渋みが感じられる、大人のフランス映画だった。
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