ぬ

チャッピーのぬのレビュー・感想・評価

チャッピー(2015年製作の映画)
4.4
秀逸な子育て映画!
ギャングスタに育てられたロボットに子どもが育つ環境の大切さを垣間見る。

(あらすじ)
近未来、ヨハネスブルグで多発する犯罪への対策として警察は、人工知能を取り入れた大手兵器メーカー製のロボットの導入に乗り込む。
兵器メーカーでロボットの設計者として働くディオンは、人間と同じような感性、感情、知性を与えることのできるソフトウェアを開発するが、そのソフトウェアを実際にロボットに搭載し試作することは、上司によって反対されてしまう。
どうしても自分の作ったソフトウェアを試したいディオンは、ソフトウェアをインストールするため、バッテリー損傷により廃棄される予定の同社の警官ロボを車に積み込み、こっそりと持ち帰ろうとする。
しかし、廃棄ロボを乗せたディオンの車は、ヨハネスブルグのギャンググループに襲われ誘拐されてしまう。
ギャンググループは、犯罪の手伝いをさせるために警官ロボットを探していたのだ。
ギャングのアジトに辿り着いたディオンは拳銃で脅され、抵抗できないままに、破損した警官ロボにソフトウェアをインストールさせられる。
しばらくしてソフトウェアのインストールが完了した警官ロボは、初めて見る周囲の世界に怯えている。
ギャンググループの紅一点・ヨーランディは、まるで人間の赤ん坊のようなそのロボットに「チャッピー」と名付け、母親役を買って出る…


ニール・ブロムカンプの映画は漏れなくすべてがドストライク!
3回映画館に観に行った。
設定、ビジュアル、キャスト、音楽、アクション、セリフ、ストーリー…すべていい!
ニール・ブロムカンプのSF愛、ロボット愛を叩きつけられているようでたまらん。

まず、士郎正宗のアップルシードから影響を受けたというチャッピー(警官ロボット)のデザインがものすごくいい。
見た目は同じながら、警官ロボットはかっこよく、チャッピーは可愛い!
犯罪を見つけると容赦なく攻撃する警官ロボット達の活躍シーンも、かなりイカしてて胸がいっぱい!
もちろん、廃棄の警官ロボットに感情ソフトウェアをインストールしているだけなので、チャッピーも他の警官ロボットと見た目は同じ。
(バッテリーが壊れたことが原因で廃棄される予定だった、という設定も後々ストーリーに効いてくる!)
そんなイカつい見た目と反して、初めて見る人間、初めて触れる世界、初めて感じる喜びや怒り、ひとつひとつの初めてを経験していく純粋無垢なチャッピーが愛おしくてたまらん。
チャッピーのモーションを演じているのは第9地区のヴィカス役、エリジウムのクルーガー役のシャールト・コプリー。
エビになったりロボットになったり、難しい役ばかりなのにどれもお見事!
ずんぐり体型の殺戮系逆関節ライバルロボ、ムースもかわいい!
(ディオンを勝手にライバル視して暴走する、軍人上がりの狂ったムースの設計者をヒュー・ジャックマンが熱演!珍しく悪役!ダセェマレットヘアが最高!)
ロボット萌の人にとっては本当にたまらんはず。

そして、ギャンググループの中心メンバー、ニンジャとヨーランディを演じているのは、レディガガにライブOAに誘われるも「あんたダセェから無理」と拒否った挙句、生肉ドレスのガガが南アフリカでライオンに食われるMVまで作っちゃったHIP HOPグループDie Antwoordの二人。
Die AntwoordのMVやアートワークのように可愛くて不気味な落書きだらけのアジトや、カラフルにペイントされた玩具のような拳銃、落書きされブリンブリンなアクセサリーをつけられてギャングスタ仕様になったチャッピーなど、ビジュアル的にもツボすぎる。
音楽ももちろんDie Antwoordの楽曲がたくさん使われていてかっこいい。

肝心なストーリーについて、もうあたしゃニール・ブロムカンプがニクイと思うくらい、アツいストーリーだと思う。
生まれたてのまっさらな心のチャッピーを取り巻くのは、犯罪を犯さなければ生きていけないギャンググループという環境。
たまたまテレビでヒーローアニメHe-Manを見て、正義のポーズを真似するチャッピー。
しかし、憧れのヒーローとはまるで真逆のギャング達から銃の撃ち方のレクチャーを受ける。 
はじめは怯えて腰の引けているチャッピーも、「大好きなパパ(ニンジャ)とママ(ヨーランディ)に喜んでもらう」ため、自ら進んで犯罪行為に手を染めていく。
ただただ両親に褒めてもらいたいがために、犯罪と気付くことなく犯罪を犯し、「パパ、ボク頑張ったよ!ほら!」と嬉しそうに報告するチャッピーのなんと無邪気で哀しいこと…抱きしめてやりたい…硬くてこっちが痛そうだけど…
特にギャングスタになるためにチャッピーの受ける「洗礼」のシーンはあまりにも残酷すぎて、思い出すだけで泣けてくる…
人のエゴによって創られ、裏切られ傷つけられ、それでも人の優しさは忘れることなく、人を信用するチャッピーの姿…おぉ…

同監督の『第9地区』からは異なる2つのグループの対立や接触、『エリジウム』からは格差社会というテーマが感じられるように、『チャッピー』からは子育て、特に子どもを取り巻く環境が、その子供の人格形成にどのように影響していくのかというテーマを感じた。

犯罪者を攻撃するために生み出された警官ロボットの身体と、豊かな感受性が溢れるチャッピーの心のアンバランスな危うさ。
おそらく彼ら自身もまたまともな教育が受けられず、毎日綱渡りのような生活を余儀なくされ、そのような環境から抜け出す術もなく犯罪を繰り返して生きるしかないギャンググループ。
そこに現れたチャッピーという純粋な存在を通し、母性や父性が芽生え始めるニンジャとヨーランディたちの心の変化。
しかし、子育ての仕方など知る由もなく、ときには子ども(チャッピー)の扱い方がわからずにイラついて八つ当たりをしたり、そのような子育ての葛藤のようなシーンを見ると、簡単に「親が悪い!」とか切り捨てられない感じがやけにリアル…

「肉体は魂の容れものである」という哲学が一貫しているところもいい。
ラストは賛否両論だが、私は好き。
ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、はたまたどちらでもないのか、それは本人たちにしかわからない。

さらにそれだけではなく、そのようなテーマやメッセージをニール・ブロムカンプの言うように「夏にポップコーンを食べながら観られるような」笑って泣ける面白い娯楽作品に落とし込んでいるところが素晴らしい。
見終わったあとに、あらためて映画が好きだなー!と思える映画。

あー、もっとニール・ブロムカンプ監督の映画が観たい……
ぬ