茶一郎

キャプテン・マーベルの茶一郎のレビュー・感想・評価

キャプテン・マーベル(2019年製作の映画)
3.8
 おそらく『キャプテン・マーベル』はマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)史上、最も主人公の内面変化を静かに捉えた作品です。

 動画でのレビューはこちらです
 https://www.youtube.com/watch?v=n3sBG2e5ets

 クリー人として異星人スクラルと戦う特殊部隊スター・フォースに属していた主人公キャロルは、そのスクラルとの戦いの最中、地球に落下し、その地球で自分の真の出自、アイデンティティを得ます。
 今回、この『キャプテン・マーベル』の監督に抜擢されたアンナ・ボーデンとライアン・フレックのコンビは、一貫して人生に行き詰まってしまった社会的に「正しくない」人物のささやかな復活を静かに描いてきた作家ですが、本作もその作風から漏れず、橋から「落下」し、辿り着きた精神病棟という「別世界」で自身の真の生きる目的に気づいた『なんだかおかしな物語』の主人公のように、落下を経て地球という別世界で成長を遂げるのです。
 そのため『キャプテン・マーベル』で最も映画的に美しいシーンは、マジックアワーの中、自身の出自に気付き心を落ち着かせるキャロルを手持ちカメラで捉える、まるでインディペンデント系映画の山場のようなシーンである事は過去のMCU作品になかった異常な光景のように見えました。

 しかしながら静的と言っても、アクション映画としての興奮はしっかりあり、その根っこには90年代SF映画があります。それは1995年の地球が舞台であり、キャロルが落下する場所がブロックバスター(ビデオレンタル店)である事からジワリジワリと観客に伝わります。
 ざっくり「90年代SF」と言っても、超人と地球人に姿を自由自在に帰るスクラルとの街中での戦闘は概ね『ターミネーター2』でしょう。(途中で『フレンチコネクション』オマージュの鉄道と車のチェイスシーンが挿入されるのも可愛げがあって、好印象です。)
 ここで『ターミネーター2』のアーノルド・シュワルツェネッガー扮するT-8000のポジションが、本作『キャプテン・マーベル』ではサラ・コナーより遥かに強い超人的な「女性」に代わっている事が、本作が何より現代的な女性ヒーロー映画である事を意識させます。90年代SFを現代のヒーロー映画にアップデートする姿勢がありました。
 ちなみにオマージュで言うと、『トップガン』オマージュが非常に色濃い作品でもあります。

 中盤以降、上述の「静的」な場面になる『キャプテン・マーベル』ですが、口が裂けても言えないような新事実が明らかになります。
 大国が「防衛のため」と言って行なっている戦争が、結果的に難民を生み出している構図、その難民を救おうとヒーローが立ち上がるその様子は、戦争大国アメリカの戦争難民に対する自己反省と取っても良いかもしれません。そのヒーローが、アメリカ空軍をモチーフにしたコスチュームをきているというのは何たる皮肉かと思いましたが……
 
 静かで、過激で、また静かで、過激で、何とも異常なMCU作品ですが、きっとアンナ・ボーデンとライアン・フレックのコンビ、そして囚われていた親子が外の世界に脱出する『ルーム』で脚光を浴びたブリー・ラーソンを起用したケヴィン・ファイギの狙いは、その静かな部分、そして超人ブリー・ラーソンと90年代を代表する俳優の一人サミュエル・L・ジャクソンのアンサンブルにあるのでしょう。
 どうせ90年代推しするならVFXで、『パルプ・フィクション』なみの増毛をサミュエル・L・ジャクソンにしてあげても良いのではないかと思ったのは、私だけでしょうか。
茶一郎

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