ろ

スポットライト 世紀のスクープのろのレビュー・感想・評価

5.0

「君はまだ半分しか知らない」

本当は、どんな出来事にも時効なんてないと思っている。
虐待やハラスメント、あらゆる犯罪だけじゃなくて、いじめにも失恋にも。
「あのときの一言が嫌だった。こんなことされて腹が立った」
思い出すと悔しくて苦々しい、忘れたいのに忘れられない。
胸がチクリと痛むどんな心の傷も、2年経てば3年経てばスッと消えていく。そんな魔法みたいなこと、起こらないのだから。

信じていた神父に性的暴行を受けた子どもたちは、大人になっても傷が癒えない。信仰も希望も奪われた彼らは苦しみ続ける。
人間の自然な姿を、宗教は禁欲という形で縛り付けてきた。真相を追究する心理療法士は「虐待の原因は神父の独身制にある」と語る。
かつて‘いたずら’を行っていた神父は「あんなことをしても満足できなかった。私自身、(教会に)レイプされていたんだ」と記者に告げる。それもまた真実だと思う。

たとえばニュース番組で中学生や高校生の自殺が報じられると、何が彼らを追い詰めたのか、その人の背景を想像する。
しかし有名人が薬物依存症で捕まっても、私たちがその人の苦しみに思いを馳せることはない。
自殺も薬物依存も虐待もそこに至った経緯が必ずあるはずなのに、倫理観は心の目を潰してしまう。

30年間、神父による児童虐待を黙殺してきたのは教会だけではなかった。
見て見ぬふりをしたのは自分だったのだと気付いてからが人生なのだと思う。
ろ