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あんの会社員のレビュー・感想・評価

あん(2015年製作の映画)
5.0
主人公は暗い過去を抱えており、細々と好きでもないどら焼き屋を続けていた。ある日アルバイトを希望して訪ねてきた老婆は、実は“あん”作りの達人であり、店は大繁盛するものの、彼女にはある秘密があった。
ハンセン病に対する世間の無理解や差別を軸にしながらも、社会の中で力強く自分らしく生きる普遍的なヒントを示唆する映画。


現代ではその病名は名前こそ知れ、かつての隔離政策やひどい扱いは忘れられようとしている。10代半ばで隔離されてしまった人々も多く、そのうちの一人である徳江の人生はまるで籠の中の鳥であった。主人公も家主に負い目を感じながら小さな店から出ることができず、母子家庭で貧しい常連の女子中学生も小さなアパートで肩身の狭い暮らしを送っていた。
しかし徳江だけは違った。今では直接的な攻撃はなくとも、世間の冷たい目は依然として根強い中、自らの好きなことに打ち込み、世間の雑音ではなく自然に耳を傾けていた。二人はそんな姿に勇気をもらい、次第に前を向くようになる。

評判は評判を呼び大繁盛するものの、ハンセン病患者の噂が広まるとパタリと客足は途絶え、徳江は気を遣ってバイトを辞めてしまった。女子中学生はある事情から家出せざるを得なくなり、主人公の店も経営者の勝手な都合による改装が決まったが、窮地に追い込まれた二人を救ったのは、徳江の声であった。


隔離病棟でのもてなしの場面では、彼女を世間の無理解から守ってあげられなかった言い様のない悔しさを見事に表現しており、強く心揺さぶられた。
「美味しいときは笑うのよ」という言葉が印象的。どれだけ美味しいあんを作ることができても、社会の目は冷たい。衛生面を気にして客足が遠退いてしまう。その言葉を聞いたからこそ、むしろ止めどなく悔しさが溢れていった。


ハンセン病であろうと、社会的な負い目を抱えていようと、世界を見、その声を聞くことがこの世に生まれた意味であるとすると、誰しもが生きる意味はある。何者にもなれなくとも、それでよいのだ。まだまだ若くやり直すことができると気付いた二人は、それぞれの道を力強く歩んでいく。
主人公はラストシーンで、今まで出したことのない大きな声で接客をする。その姿はもはや籠の中の鳥ではない。勇気をもらえる素晴らしい作品だった。
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