未島夏

バケモノの子の未島夏のレビュー・感想・評価

バケモノの子(2015年製作の映画)
3.9
渋天街、バケモノの世界で暮らした幼少時代、九太の成長過程の描き方はまさに物語の王道。
出会いからのファーストインプレッションは決して良いものではない。スレスレの所で互いの利点が噛み合い関係が保たれ、急激な環境の変化に翻弄されながらも果敢に生きる。次第に周りの人物の心の内に触れ、打ち解けていき、みんなに認められていく。
その過程がとても短い尺で簡潔に、尚且つ起伏溢れた展開でまとめられていて、シナリオの念密さをみせつけられ圧巻していた。
この前半だけでもこの映画には価値があると言って良い。

一方で、導入部分は観客に対して親切が過ぎ、むしろ雑な台詞回しが鼻につく。
九太の境遇に対して全く演出としての重量感が無い。

台詞についてもう一つ語らなければいけないのはこの作品のヒロインである楓だ。
この楓は、率直に言えば「居なくてもシナリオが成り立つ事は出来る存在」に甘んじている。
理由として、大事なシーンでの役目をほとんど台詞に任されているからだ。
九太に強い影響を与え、物語を大きく動かすキーであるヒロインという立場としては良く描かれているのは確かだが、感情を台詞としてしか体現出来ておらず、それによって簡単に気持ちが動く九太に対して拭えぬ違和感が出る。

全体としてはこれだけの情報量をよく2時間弱でまとめられるなと、舌を巻く映画に違いはない。
ただし、そのまとめ方を台詞に注力し過ぎていて、感情移入仕切れないのがとても惜しい。
その点において「サマーウォーズ」と比較してみると、いかにそのシナリオが優れていたか痛感する。
それらを踏まえつつ、この「バケモノの子」は相変わらずの濃さを出していて、とても見応えのある映画だった様には思う。
未島夏

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